エギュイ・デュ・ミディ展望台とブレヴァン

2022/07/31

さすがにハイキングに飽きてきたのと、マルチパスの代金の元を取るならミディ展望台に登らねばというそろばん勘定とがあって、この日は朝早くにホテルを出てエギュイ・デュ・ミディ展望台に通じるロープウェイ駅に向かいました。

これまで何度も乗っているこのロープウェイですが、たとえ朝一番で空いていても窓口で予約番号をもらわなければならないシステムに変わっていました。

途中の乗換駅であるプラン・ドゥ・レギュイからミディの展望台を見上げると、その左には2019年に登ったエギュイ・デュ・ペイニュのパピヨン稜が懐かしく、自分がもっと若ければこの辺りのクラシックなルートもあと何本か登れたのにという気持ちになってきます。

プラン・ドゥ・レギュイからミディの展望台までの間には支柱が1本もなく、ロープウェイをぶら下げるケーブルは大きくたわんでいるために最後はかなりの急勾配で上に引き上げられていきます。

熱波のために雪や氷の状態が悪く、高所登山は困難というのが事前情報でしたが、それでもたくさんのクライマーが展望台の洞穴から雪原に向けて降りていく姿も目撃し、強い羨望を感じました。ただし見下ろす雪原には大きなクレバスがあちこちに走っており、確かに状態は悪そうではあります。

ミディの展望台に純粋に観光で上がったのは実はこれが初めてで、ほとんどお上りさん状態であちこち歩き回りながら展望を楽しみました。セキネくんと共に走るようにこなしたコスミク稜最終ピッチやフランス人ガイドのロメインにアテンドしてもらったミディ南壁の終了点がすぐそこにあり、目をこらせば現場監督氏と共に登ったエギュイ・デュ・プランツール・ロンドも見えています。そして目の前にはもちろん巨大なモン・ブランがあり、左に目を転じるとグランド・ジョラス、さらに左の遠くには小さく、しかしはっきりとマッターホルンも見えました。

シャモニーの谷底から見上げるとやはり威風堂々としていて魅力的なブレヴァンも、こうしてミディ展望台から見下ろすと尾根上の突起に過ぎません。

ミディ展望台の一番高いところにはエレベーターでアクセスする作りになっており、通常はここでずいぶん待たされるようですが、この日は時間が早いので5分待ちですみ、ミディ展望台名物の「ガラス箱」にも向かいました。

さすがにこちらは30分ほどの行列が必要でしたが、係のお兄さんがさまざまな角度から写真を撮ってくれて、最後には「マタキテクダサイ」と日本語で挨拶もしてくれてとてもよい思い出になりました。

ちなみに展望台の中にはこのように日本語表記もされていますが、実際に私が見掛けた東洋人はほとんど韓国人でした。いずれ、この表記もハングルに変わってしまうかもしれません。

見るべきものは見終わったのですが、せっかく富士山より高いところに上がってきたので1時間ほどここにとどまろうとカフェに入り、エクレアとカフェ・オレを注文しました。これで€9.80というのは高いのか安いのか悩ましいところですが、富士山のてっぺんでお汁粉が700円もするのですから妥当な線だろうという気もします。

下りのロープウェイもすんなり乗れて、プラン・ドゥ・レギュイでいったん外に出てミディ方面の展望を楽しんでから、引き続きシャモニーに下るロープウェイに乗り込みます。

下りロープウェイ名物、支柱通過時の無重力体験に驚く人々の悲鳴。

いったんホテルに戻って小休止をとってから、午後はブレヴァンに上がることにしました。ミディ展望台から見下ろしたブレヴァンから、逆にミディを見上げたらどう見えるだろうかという発想です。

ロープウェイの中からブレヴァンの岩場を見やると「フリゾン・ロッシュ」は大渋滞。

そして案の定、ブレヴァンの上からはどうしてもモン・ブランの大きさと白さに目が行ってしまい、エギュイ・デュ・ミディはシャモニー針峰群の中の一突起にしか見えません。そこからプランまではほんの目と鼻の先のように見えるのですが、あの往復のために予定外のビバークを伴う1泊2日を要したのも今となっては懐かしい思い出です。

ブレヴァンからそのままロープウェイで下ってもいいのですが、さすがにそれもなかろうとプランプラまで歩いて下ることにしました。コルの岩場にはフリークライマーが三々五々取り付いています。

「フリゾン・ロッシュ」を真横から眺めましたが、渋滞は相変わらずのようです。

さらに下っていくと「La Somone」や「Crakoukass」といった覚えのあるルートたち。

かくしてプランプラからロープウェイに乗ってシャモニーの町に戻り、これで旅の第一節であるシャモニーでのハイキングを終了しました。明日からは旅の第二節としてドロミテでのクライミングが始まります。

この5日間で歩いたハイキングルートのうちラック・コルヌエギュイエット・デ・ポゼットは『10 Best Hikes Around Chamonix, France』を参照してセレクトしたものです。

これらも含めてここまで歩いたハイキングルートを地図上にピンク色で示すと上のようになり、これを見るとポゼット以外はエギュイ・ルージュに偏っていることがわかります。本当はミディ展望台からプラン・ドゥ・レギュイに下ったところでロープウェイを離れGrand Balcon Nordを歩きたかったのですが、7月27日に起きたモンタンヴェールでの事故の影響でその周辺のトレッキングルートも全面閉鎖されてしまったために、仕方なくこういう歩き方になりました。もっとも、シャモニー周辺のハイキング道は(湖を除いて)同じ眺めが延々と続くという特徴を持っているので、次にシャモニーに来る機会があったとしても、こんなふうにハイキングを詰め込むことはしないだろうと思います。