ラック・ブラン

2022/07/30

今日は26日のラック・コルヌからの連想で、2015年にも行ったことがあるラック・ブランを訪ねてみることにしました。

昨日とは打って変わっていい天気ですが、こちらの車は右側通行であることを失念していて危うく反対方向のバスに乗るところでした。バス停で行き先表示を見てはっと気がつき反対側のバス停に着くと、ちょうどレ・プラ行きのバスが到着する1分前。満員に近いそのバスに乗ってあっという間にレ・プラに着き、テレキャビンでフレジェールに登ってさらにリフトに乗り継ぎました。

フレジェールからランデックスに上がるリフトのこの開放感は、何とも言えない気持ちよさ。

そしてランデックスに到着すると、目の前に広がるのはかつて登ったランデックスグリエールの岩壁です。ラック・ブランへは、この岩壁を正面にして右手(コル・デ・モンテやバルム峠の方向)に向かいます。

この明るく開けた道は、常に右前方にシャルドネ、アルジャンティエールの二つの針峰、その手前にエギュイ・ベルトとそこから派生する尾根上のドリュ、真右のメール・ド・グラスの奥にグランド・ジョラス、さらに右にグレポンからミディへ連なるシャモニー針峰群の眺めを伴っています。

まさに山岳展望のためにあるような天気のせいで、どこから撮っても似たような構図になるのについつい足を止めてはカメラを構えてしまいます。

ほぼ水平の道はよく整備されていて歩きやすく、のんびり歩いて1時間余りでラック・ブランに到着しました。

前に来たときと変わらない明るい雰囲気のこの山上湖は、アプローチの容易さのおかげで多くの観光客を迎えており、先日のラック・コルヌの神秘的な佇まいとは対照的です。

こちらも湖畔で軽くランチ(サンドイッチのパックが薄い空気のせいでぱんぱんになっている点に注目)をとってから、おもむろに腰を上げました。

2015年はグリエールのマルチピッチクライミングの後に余った時間で立ち寄ったので、ここからそのままフレジェールへ戻ったのですが、今回は時間にゆとりがあるので少し足を伸ばしてさらに二つの山上湖を訪ねることにしました。

まず手前にあるのが、少々小ぶりなシェズリー湖Lacs des Chéserys(標高2240m)です。水の流出入があるようには見えないのに水が綺麗で、泳いでいるハイカーもいました。

そしてその先の1段下にも湖がありましたが、これまたシェズリー湖。実は先ほどのシェズリー湖の右下に隠れていた湖と合わせてこの辺りの四つの湖の総称がシェズリー湖ということになっている模様ですが、特にこの低い方の二つの湖は秘境感が漂っていてすてきです。踏み跡らしきものが湖畔まで下りていましたが、正規の登山道のようには見えなかったので高みから見下ろしただけでこれらの湖に別れを告げました。

さらに進んで少し下ったところに分岐点があり、そこから前方に一昨日登ったエギュイエット・デ・ポゼットや懐かしいバルム峠が見えていました。そのまま直進すればシャモニーとヴァロルシーヌの間の鞍部であるコル・デ・モンテに降りることになるのですが、標高差700m余りを下るのはしんどいなと言うことでフレジェールへ戻ることにしました。

我ながら軟弱だなと思わなくもありませんが、その代わりこの道筋にも見どころがいくつかありました。天然のケルンを横目に1段下ってカール状の窪地に降りるとそこには……。

ハドリアヌスの長城?……のはずはもちろんありませんが、人の営みの力強さを感じさせる石垣。

なぜかぽつんと建物Chalet des Chéserysが建ち、その先にはラック・ブランから流れ落ちてきたとおぼしき水流が岩壁を穿って滝を作りながら流れ落ちていました。

日本人の心の琴線に触れる光景……というのは心が狭い。行き合わせた外国人観光客(英語を使っていたので)も「Look at that waterfall.」「Beautiful!!」といった会話を交わしていましたから、美しいものを美しいと感じる感性は万国共通です。

それにしても、対岸のメール・ド・グラスの乾ききった姿には痛々しいものを感じます。近年の地球温暖化に加えて今年の夏の熱波が氷河の後退を一層促したものだと思いますが、その左にあるプチ・ヴェルトへの登路となる雪田に横一線に顕著なクレバスが走っているのも同じ理由だろうと察せられました。

あとは平坦な道を淡々と歩いてフレジェールへ帰り着き、テレキャビンに乗って下界へ降りるだけ。歩行時間4時間ほどの軽いハイキングでしたが、気持ちの良い半日行程でした。

バスでシャモニーに戻ったところで、いつもの「金龍」でビールとサラダ。「That's all.」と一度は宣言したのですが、向こうのテーブルの南アジア系の家族が炒飯を食べているのを見て無性にお米が食べたくなり、ビールと炒飯を追加してしまいました。元来観光地価格である上に円安効果も相まって、お一人様のディナーとしてはこれだけで大変な出費です。とにかく節約に努めなければ……。

だからと言うわけではありませんが、諸々考えた末に今回はフランス山岳会への入会(会員資格の更新)を見送ることにしました。理由は7月26日の記事に記した通りですが、同時に、自分の怪我にまつわる出費はともかく他者に対する賠償責任保険が含まれていないことが、実は今回見送った最も大きな理由でもあります(この保険がカバーする内容は〔こちら〕参照)。