エギュイエット・デ・ポゼット

2022/07/28

昨夜、26日のランデックスからの1300mの下降の影響が1日遅れで出て膝が熱と痛みを持っていたので、今日も楽ちんコースにしようと「Grand Balcon Nord」を目指すことにしました。これはシャモニーから登山鉄道で上がったモンタンヴェールを起点とし、おおむね水平に西進してシャモニーとミディ展望台との中間駅であるプラン・ドゥ・レギュイに達するもので、実はこれも2014年に逆コースで歩いているのですが、昨日の「Grand Balcon Sud」と対をなすものとして比較しながら歩くのも面白かろうという動機がありました。

ところが、いざホテルを出ようとしたときにフロントのマダム(いくつかの日本語の単語や挨拶を知っているので日本人になじみがあるらしい)から声を掛けられました。

「今日はどこへ行く予定?」
「モンタンヴェールですよ」
「昨日事故があって電車は不通なのよ」
「えっ、そうなんですか?じゃあバルム峠にしようかな」
「バルム峠に向かうリフトも工事で運休中よ」

こんなやりとりの末にマダムが推奨してくれたのは、鉄道を使ってスイス国境にほど近いヴァロルシーヌまで行き、そこからテレキャビンに乗って稜線に上がってバルム峠へ行く方法でした。そういう方法もあるのかと目からウロコでしたが、実はシャモニー駅からの鉄道にこれまで乗ったことがなかったので、これはいい機会だと思いマダムの提案に乗ることにしました。

シャモニー駅の構内に初めて入り、妙にゆったりした出札カウンターでヴァロルシーネまで片道1人の切符をゲット。運賃は€4.90です。

こちらのシステムは改札というものがなく、動き出した電車の中を車掌さんが歩き回っての検札スタイルですが、ここで他の乗客の大半が切符ではなく見慣れたカードを取り出したことに愕然。これはシャモニーのホテルに滞在している観光客に提供されるゲストカードcarte d'hôteで、シャモニー谷の中の公共交通機関がただで使えるすぐれものなのですが、てっきりバスだけが無料になるのだと思っていたら、実はこの鉄道も特典の対象になっていたのでした。言われてみれば確かに図柄にはSNCF(フランス国有鉄道)のロゴもあるし、Vallorcineという駅名も見てとれます。迂闊だった……。

……などと考えているうちにトンネルを抜けた列車は、やがてヴァロルシーネの駅に到着しました。駅の外に出るとすぐそこがテレキャビンのステーションで、ここはもちろんマルチパスでフリー。テレキャビンは標高差700m余りを一気に稼いでくれました。

上のテレキャビン駅からしばし歩いたところにある鞍部Col des Posettesで道は左後方のバルム峠方面と右前方のエギュイエット・デ・ポゼットAiguillettes des Posettes方面とに分かれます。この時点で既に前方にはモン・ブランから手前へ連なる白銀の山々が見通せていて、テンションが上がってきます。

バルム峠にはこれまで何度か登っているので、今回はエギュイエット・デ・ポゼットに登ることにしようと前方に進みました。鞍部の標高が1997m、エギュイエット・デ・ポゼットの山頂が2201mで、その差はわずかに204m。感覚としてはケーブルカーを使って高尾山に登るようなものです(←身も蓋もない言い方)が、さすがにシャモニーの高尾山は展望のスケールが違います。

エギュイエット・デ・ポゼットからの大展望は、息を呑むほどに素晴らしいものです。ここに登ったのは初めてでしたが、今後シャモニーを訪れる人に自信を持ってお勧めできる美しい場所でした。

見ればドリュの向こうにはダン・デュ・ジェアンがちらっと姿を見せていました。あのてっぺんに立ったのも、もはや8年も前のことになります。

人が多い山頂を少し離れて平坦な山頂部の突端まで進んでみると、谷の底までの高度感が一層際立ちます。ここから谷底へ下ったり、さらに言えば逆にこちら側から登ってくるのが真面目な山屋の感覚なのですが、今回は膝を守らなければならないので往路を引き返すことにしました。

高山らしい矮化した植物をまとった明るい岩尾根を気持ちよく下ると、途中には行きに気付かなかった池塘や花もあってついつい足が止まってしまいます。どうにかコルに戻ったときには時刻はまだ正午過ぎで、ここから1時間もかからずにバルム峠まで足を伸ばすことが可能でしたが、エギュイエット・デ・ポゼットで十分に満足したためにそのままテレキャビン駅に向かうことにしました。

テレキャビンに乗ってヴァロルシーネに下り、今度こそゲストカードを使って列車でシャモニーに戻りました。やはり、ロハほど楽しいものはないな。

シャモニー駅に戻り着いてまっすぐ向かったのは、過去何回かのシャモニー訪問でなじみになった「金龍」です。ここは中華料理とピザレストランの二つの顔を持ち、もっぱら後者で利用してきた店ですが、今回もまずはビール、ついでサラダとピザを注文しました。特に生野菜に飢えている身の自分にとって、ここの山盛りサラダは貴重。もっともピザ1枚はさすがにもて余した(しかし完食した)ので、次にここに来るときはサラダとビールだけを注文することにしようと思います。


ちなみにモンタンヴェールに向かう登山鉄道の事故については、正午前に以下の内容のメールが入っていました。

Hier en début d’après-midi, un accident s'est produit en aval du site du Montenvers, sur le pylone de support du câble de service provisoire (blondin) qui devait servir à acheminer les matériaux du chantier de la nouvelle télécabine de la Mer de Glace. Cette installation de chantier était destinée à limiter au maximum l’utilisation des trains et de l’hélicoptère pour l’approvisionnement du chantier.

Nous vous informons qu’à la suite de ce dramatique accident, le site du Montenvers Mer de Glace (train – télécabine – visites) est fermé aujourd'hui, Jeudi 28 Juillet 2022.

Pour le moment, nous ne sommes pas en mesure de confirmer la réouverture du site demain, vendredi 29 juillet 2022. Raison pour laquelle nous nous permettons ce premier message. Nous vous tiendrons informé dès que possible dans la journée.

要するに工事中の事故(別ソースによれば工事に従事していた若い労働者2名が亡くなったそう)のために今日から登山鉄道は運休となり、29日の運行再開が可能かどうかも不明だという内容です。これはマルチパス購入時にメールアドレスを登録するようになっていることから、マルチパス所有者に対してその効力の一部が使えなくなることを明らかにするために通知しているものだと思いますが、こうしたところはしっかりしたものだなと思いました。