ブレヴァン「La Somone」
2015/08/04
今日は再び乾いた岩のマルチピッチ。ランデックスに行くことも考えましたが、手近なブレヴァンに落ち着きました。ブレヴァンにはたくさんのマルチピッチ課題が拓かれており、中でも「フリゾン・ロッシュ」がクラシカルな著名課題ですが、我々が選んだのはバットレスの「La Somone」です。全7ピッチ中最高グレードが5bとお手軽、それにトポに書かれている魅惑の言葉「fully equipped」(ボルト整備済)が決め手です。
ブレヴァンに向かうゴンドラの始発時刻を計算に入れてホテルを出ると、やや雲はあるものの青空が広がり、ブレヴァンの岩場もはっきりと見えています。しかし予報では午後から雨模様とのことなので、スピーディーなクライミングを心掛けたいところです。
着くのが少し早過ぎたかな?しかし、待機しているうちに続々人が集まってきました。ロープむき出しのクライマーが大半ですが、一般観光客に混じって自転車やパラグライダーの装備もちらほら。
プランプラでロープウェイに乗り換えてブレヴァンの山頂駅に着くと、クライマーたちは一斉に走り出して山道を下って行きました。これにはびっくり。皆、目当てのルートの一番乗りを目指しているようです。
ブレヴァン・クラッグスBrévent Cragsの壁にはスポートルートがずらりと並んでおり、ここに荷を置くクライマーもたくさんいました。左上の写真の壁がメイン・クリフ、右上の写真の壁がセカンダリー・クリフで、我々が登る「La Somone」は下部の岩稜を抜けて来た後にこの道を歩いて渡ってセカンダリー・クリフの左端を回り込んだところから最後の2ピッチを登ることになります。
さらにプランプラ方面へわずかに下ったヘアピンカーブの先に広いハイキング道を離れて斜面を横断する踏み跡があり、その先に目指す「La Somone」の取付がありました。ちなみに、その向こうのトサカ状の岩塔は同じくマルチピッチルートの「Crakoukass」で、そちらは6bのピッチを含むピリ辛ルートです。
この日「La Somone」に取り付いたのは5組で、最初のパーティーは我々が取付に着いたときには離陸し始めていたので詳細不明ですが、その次は山岳警察の訓練らしい教官1人と南アジア系2人、次いでガイド1人とパリ在住のご夫婦、そして我々、最後がイギリスから来たという女子2人でした。最初のパーティーはあっという間に消えてしまいましたが、訓練パーティーは生徒の1人がクライミングシューズを忘れてきていたり、支点構築も生徒にやらせていてやたら手際が悪かったりしていましたし、パリのご夫婦は年に数回しかクライミングをしないそうで特にご主人の方が不慣れ感満載。これは時間がかかるかなぁと心配になりました(が、結果的にはそれほど大きな遅れにはなりませんでした)。
1ピッチ目(20m/4b)、私のリード。出だし数歩が外傾したホールドで少しいやらしいものの、後は階段状です。終了点のボルトを先行のガイドと分け合って現場監督氏を迎えてから、現場監督氏を先にして右下10mへクライムダウン。そこが2ピッチ目のスタート地点となります。
2ピッチ目(20m/4c)、現場監督氏のリード。見上げた感じはこれも階段状で、先行するご夫婦が躊躇していたり息を荒くしているのを眺めながら「III級くらいかな」「いやさすがにもう少しあるだろう」と話していたのですが、実際に取り付いてみると意外に傾斜がきつく、ホールドもクラックとその周辺のかすかな凹凸、それに部分的にスメアリングを駆使するピッチで、侮れません。
ピッチグレードとしては「4c」ですが、このルートを登り終えた後の感想としてはこのピッチが最も難しく感じました。
3ピッチ目(30m/4a)、私のリード……と言っても、ほとんど水平に歩くだけ。
安定した取付で先行パーティーが抜けるのを待ってから、4ピッチ目(15m/5b)、現場監督氏のリード。出だしのかぶったセクションを左から回り込むところと、最上部のやや細かく立ったセクションが面白い課題ですが、2ピッチ目との間に2グレードも差があるようには思われません。
そしてこのピッチを登り切るとすぐ左から懸垂下降することになるのですが、これは要するに無理矢理1ピッチ増やしているだけで、実は簡単に左から巻けるということなのでは?
ともあれ、ここはおとなしく指定に従って懸垂下降することにしました。
5ピッチ目(25m/4c)、私のリード。私にとってはこの日一番楽しかったピッチです。とにかく真上を目指して行けば良いのですが、壁はすっきりと立ち、ホールドはしっかりしており、それでいてところどころラインどりについて頭を使わせるパズルのような要素もあります。
5ピッチ目を抜けたところから後ろを見ると、隣の「Crakoukass」の核心部を登るパーティーの姿も見えました。
そして、眼下にはブレヴァン・クラッグスの全景が広がります。最後の2ピッチは左側の壁の左端で、その奥の岩峰がブレヴァンの主峰ですから、実にコンビニエントです。
トポ(英語版)に「little Matterhorn」と書かれた小岩の近くが取付で、向こうに先ほど通過した5ピッチ目終了点が見えています。しかし、向こうとこちらの間の広い道をロープを付けたままクライミングシューズで横断するのは、なんとも間抜けな感じがしました。
6ピッチ目(35m/4c)、現場監督氏のリード。出だしのホールドが甘く、その先も傾斜が案外きつくて見た目ほど簡単ではありません。
7ピッチ目(20m/4b)、私のリード。最後は気分良くぐいぐいと登って終了です。ところどころ先行パーティーが動き出すのを待つ場面もありましたが、終わってみればそれほど渋滞した感じはしませんでした。
終了点に着いたところで雨がぽつぽつ降り始めたため、景色を眺めるのもそこそこにロープをしまいました。我々の後をついてきていた英国女子2人はややスピードが遅く、5ピッチ目終了点で店仕舞いとしたようでしたが、確かにルートとしてはその方が自然です。
目の前のブレヴァン駅への登り返しは所要10分。12時40分に全行動を終えました。
ロープウェイの窓からはブレヴァンの大岩壁が一望できました。いずれここも登ってみたいものですが、現場監督氏も私も今年の前半は故障のために岩場に行くこともままならず、今の力量では「6」台のマルチピッチに挑むのは少し荷が重そうです。
登り終えたら交通機関を利用して下山できるというのは、私の理想のクライミングスタイルです😅。
ホテルへの帰り道、せっかくだからと現場監督氏を登山博物館に案内しました。入口にあるミレーの古いリュックサックからして現場監督氏は大いに興味をそそられたようでしたが、さらに現代のものとあまり変わらないと思えるナイロンリュックサックが1980年に発売されていたことには驚いたようです。
モン・ブランのルートをここで確かめたり、ブチ・ヴェルトで出会ったブラック・アイスに「こいつが悪い」と悪態をついたり。
グラン・キャピュサンのフリー登攀のショート・ムービーを観てから、現場監督氏が敬愛するボナッティの写真とも対面しました。
ホテルに戻ってから翌日の行き先について意見交換をしましたが、ネットで情報収集してみると、やはりモン・ブランのグーテ小屋ルートは危険とされており(今シーズン、落石で死者が出たようです)、さらにモン・モディの斜面も氷化していて決して楽観視できません。結局、そこを押してモン・ブランに向かうという選択肢は採用し難いという結論に達しました。そこで、今回の旅でのメイン課題は翌週のツール・ロンドとロシュフォール山稜に設定することにして、明日はさくっとミディ〜プラン縦走を行うこととしました。ただし現場監督氏が「山の家」で聞いてきたところによると、こちらも雪解けが進んで「bad condition」ということではあったのですが……。