エギュイ・ダントレーヴ

2023/06/20

今日から2日間はトリノ小屋を起点にした登攀デイズ。イタリア側が好天を期待できるという天気予報に基づいての設定で、フランスからイタリアへの移動を伴う今日はトリノ小屋から近いエギュイ・ダントレーヴAiguille d'Entrèvesを登る予定です。

ところが、テオの車でモン・ブラントンネルを抜けイタリア側に出てみると予想外の霧の中。こんなはずでは……。

ここまで来た以上仕方ないので、黙ってスカイウェイ・モンテ・ビアンコに乗りました。こちら側からエルブロンネルに上がるのはこれが2回目ですが、前回は現在のスカイウェイが完成(2015年)する前でしたから、360度回転式のモダンなゴンドラに乗るのはこれが始めてです。

同じゴンドラにはテオの知り合いのベテランガイドとガイドの卵らしい若者たちが大勢乗っており、中間駅での乗換待ち時間に突如ブリーフィングが始まりました。テオの話によれば、彼らは履修すべきハイマウンテン・クライミング・スキーの3ステージのうちハイマウンテンステージの研修としてこれからの1週間を山の中で過ごすのだそうです。

近未来的なエルブロンネル展望台からエレベーターで古色蒼然としたトリノ小屋に降りた我々は、ロープを結んでただちに霧の中を出発しました。

なにしろホワイトアウトの中をロープに引っ張られて歩いているので現在地の把握もできませんが、頭の中の地図と実際の傾斜を突き合わせると我々は定跡通りフランボーのコルCol des Flambeauxを通って西へ雪面を下り、途中から南西に向きを変えてアントレーブのコルCol d'Entrèvesに辿り着いた模様。ここに着いたときは視界10mほどとまったく見通しがきかない状態でしたが、もし晴れていれば2015年にツール・ロンドを登ったときの取付も見えたはずです。

Aiguille d'Entrèves

A wonderful outing that offers exposure and situations normally reserved for much harder routes. The peak is popular so, unless your timing is perfect, you're unlikely to have it to yourself.

テオからの「岩が濡れて滑りやすくなっているから慎重に」という注意と共に、登攀はアイゼンを履いたままで行われました。

霧の中から次々に現れる鋭い歯のような岩を右に左にとかわしながらさほど高度差をもたずに続けられる縦走は、日本で言えば北穂高岳東稜を彷彿とさせますが、実際にはそれを何倍も長く、何倍も難しくした感じ。残置スリングをつかんで強引に身体を引き上げなければならない箇所もあったりしましたが、基本的にアイゼンを履いた岩稜登攀は私の得意科目の部類なので楽しく登り続けられました。

いつ山頂を踏んだのかもわからないうちにルートは下降基調に入ったものの、そのまま稜線通しに進むのではなく早めに左に折れて最短距離で雪面を目指します 。

するとタイミングよく一時的に周囲を隠していた雲が取り払われて、エギュイ・ダントレーヴからツール・ロンドに連なる岩稜の全貌を見ることができました。これがなかったら自分はどういうところを歩いて(登って)いたのかさっぱりわからずにこの日の登攀を終えるところでしたから、これは実にラッキーでした。

再びロープを長く伸ばしてジェアン氷河の上を渡り、フランボーのコルに登り返してトリノ小屋に帰還。朝このトリノ小屋を出発したのが9時半で帰ってきたのが13時15分ですから、実働4時間弱のショートトリップでした。山小屋内のバーでまずはエスプレッソを飲んで一息ついてからチェックインしたところ、あてがわれた部屋は幸い独り占めとなり、翌日に向けて仮パッキングをしてから身体を休めてしばしうとうと。この山小屋に泊まるのはツール・ロンドに登った2015年以来二度目です。

夕食は最初にパスタかスープが選べて、私は野菜たっぷりのスープをチョイス。メインディッシュもミートボールに温野菜が添えられていて、シャモニーでの野菜不足の食生活を嘆いていた私にはうれしいものでした。さらにデザートとしてムースか果物(りんごとバナナ)が選べ、こちらはムースをとってテーブルにつきましたが、まずはテオと赤ワインをシェアして乾杯です。これらを食べ終わったところでそのまま食堂で翌日の打合せを行い、明朝は午前4時に起床してその時点で天気が良ければ朝食をささっととってトリノ小屋からアプローチ70分のLe Roi de Siam(プチ・キャピュサンPetit Capucinの派生ピーク)に引かれた9ピッチの「Le Lifting du Roi」(D+ 5c)を目指しますが、もし起床時点で天気が悪かった場合はさらに数時間睡眠をとって、今日とは反対側のダン・デュ・ジェアン側にある短いクラシックルートであるエギュイ・マルブレAiguilles Marbréesを登ることになりました。

夕食を終えてから山小屋の外に出てみると、好天とは言わないまでも東の方は雲が取り払われてダン・デュ・ジェアンがきれいに見えています。このままさらに良い方向に天気が変わっていってくれればいいのだがと思いながら屋内に戻って、自分のベッドに直行しました。