ランデックス「Voie Brunat-Perroux」

2022/08/08

癒し系シリーズ第二弾は、懐かしいランデックスの東壁に引かれた「Voie Brunat-Perroux」です(と言っても古いトポを元に実態より1グレード易しいと誤認して選んでいますが)。「懐かしい」と言うのは、初めてシャモニーを訪れた2014年に連れて行ってもらったルートのひとつがランデックス南東稜だったからです。

駐車場からはっきりと見上げられる岩峰ランデックス。こうして見ると存在感を示していますが……。

実際にはこのように斜面上の突起に過ぎません。

それでもこうして横から見ればそのすっきりとした姿に惚れ惚れ。それになにしろアプローチが容易だというのがうれしいところです。今日登るルートは上下2段に分かれている東壁の下段から取り付くものですが、かつて登った南東稜は中間の緩傾斜帯を端まで歩いて上段だけを登るものでした。

上述した美徳は他のパーティーを惹きつける要素でもあるということで、混雑を避けるためにこのルートを狙うのをあえて月曜日にしたのに、取付きには複数のパーティーがたむろしていて先行きを不安視させました。しかし幸いなことに、先に取付きに着いて待機していた大人数の一団が我々が2人であることを見てとると先を譲ってくれたので、あまり待ち時間を費やすことなく出発することができました。以下、昨日と同じく奇数ピッチが私のリードです。

1ピッチ目(5b)は、ルートそのものの難しさよりもこのように複数のパーティーが錯綜している状態でどのように振る舞うべきかという点で悩んでしまいました。上の確保支点に我々より2組前のパーティーのセカンドがおり、その手前の中間支点に1組前のパーティーがカムも用いて支点を作って2人して先行パーティーの動きを待っている状態で自分はどこまで出ればいいのか……。結論から言うと中間支点で止まるのではなくその確保支点まで進むのが正解だったのですが、日本的な奥ゆかしさを発揮したためにかえってハンガーボルト1個で確保支点を構築するという羽目になり、それではダメだと後続してきたテオから指導を受けました。

2ピッチ目(4c)はなんと言うこともなく、3ピッチ目はその先の緩傾斜帯を私がロープを引きずって進んで壁の上段の直下まで、4ピッチ目(5b)は目の前に広がる見事なスラブを丁寧にこなします。

5ピッチ目(5a)は下から見ると威圧的なクラックを突破してその先にあるピナクルの上まで。しかしクラックと言ってもジャミングではなく横引きのガバがあるという感覚で大胆に身体を引き上げることができ、終わってみればグレード通りでした。

6ピッチ目(5b)は頭上に張り出す岩(古いトポにはsentry boxと記載)を避けて左に出てから直上するラインで、この左に出て上がる2歩がカチ頼みの微妙なものになります。

7ピッチ目(4c)は頭上に見えているスカイラインを目指しつつ右上していくもの。特に問題はありませんが、スカイライン手前で渋滞が発生していたため確保支点を作る場所に迷ってライン取りを誤った結果、最後の10mほどをランナウトすることになりました。

渋滞するのは山頂が近いからでもあり、ここが南東稜との合流点になっているからでもあります。ここで待機していた先行パーティーのうち1組はハンガーボルトで作られた確保支点を使用していましたが、もう1組(上の写真)は岩にスリングを回してナチュラルな確保支点を構築していました。

さて、このルートのオリジナルなラインは目の前のつるっとした垂壁(6a)を登るのですが、その場でこの壁を登ろうとする者は誰もおらず、最終ピッチを担当したテオも他のパーティーも目の前のギャップを越えて上がっていく易しい道筋を採用していました。

ギャップの先は水平に近くなって、山頂らしさの希薄な山頂に通じています。登攀開始9時30分、山頂到着12時10分。今日もコンビニエントな登攀でした。

モン・ブランを背後に写真を撮ってもらったら、ただちに下降開始。山頂直下の下降支点までクライムダウンしてから、懸垂下降を重ねることになります。

今回、登りでは60mロープ1本を使用していましたが、懸垂下降用に細いロープ(おそらく径は6mm)を私が担いでおり、これらを繋いで下降の長さを稼ぐことになりました。

こうしたやり方は自分も日本の山で経験済みですが、なるほどこういう工夫があるのかと思ったのはロープの結び目の近くにさらにノットを作っておくということ。太さの違う2本のロープを用いて懸垂下降すると細い方が下降器をすり抜けていく傾向がありますが、これを防ぐ工夫だろうと思います。2本のロープの結び目だけでもその役目を果たしてくれそうにも思いますが、結び目が下降支点に当たり圧迫されることでほどける方向に力が働くリスクを避けるためでしょうか?

ともあれ、昨日と同じくこの光景を見ながらリフトで下り、昨日と同じくフレジェールで寄り道をしてコーヒーで締め。この後、私はホテルに送ってもらって翌日のシビアになるであろう登攀に備えて身体を休めましたが、プロのガイドとして体力維持に余念のないテオはシャモニー市内の滞在先からレ・ズーシュLes Houchesまで片道5kmのランニングで汗を流したそうです。実はクライミングが早く終わったときのランニングはこの日だけのことではなく、前日のポワント・ガスパールの後も、さらにはドロミテでのトーリ・デル・ヴァヨレットの後も、滞在先に戻って荷物を置いたらランニングスタイルになってひと走りしてからシャワーを浴びていたとのこと。うーん、この真似はできないなぁ……。