トーリ・デル・ヴァヨレット トーレ・デラーゴ南西アレーテ

2022/08/05

一昨日・昨日と長いルートを登ったので今日は短いルートをさくっと登って終えたい、という私からのリクエストに基づき選ばれたのは、カティナッチョ・グループのひとつであるトーリ・デル・ヴァヨレットTorri del Vajoletのピークのひとつ、トーレ・デラーゴTorre Delagoの南西アレーテです。

アプローチの道からは、正面に2日前に奮戦したカティナッチョの壁が見えています。よくあんなところを登ったものだ……と感慨にふけりつつ、この日はその右にある岩峰群の間に通じる道へ進みます。

よく整備されて歩きやすい道を歩いて、まずは山懐に抱かれて雰囲気の良いRifugio Vajoletに登り着いてひと休み。

さらに岩峰に挟まれた山道をひと登りしてRifugio Re Alberto 1°に達しました。この山小屋のボスだとテオが紹介してくれた女主人に挨拶をしてコーヒーを1杯いただき、そして振り返れば目指すバイオレット・タワーは目の前です。

山小屋のテラスにはルート解説図が設置されており、ここでコーヒーを飲みながら岩峰を眺め、ルートを確認することができる仕組みになっています。トーリ・デル・ヴァヨレットはこの辺りにかたまっている標高2800m前後のいくつかのピークの総称ですが、主なクライミングルートはこの図解にあるように手前の小さなTorre Piazとその向こうの三つのピーク(Torre Delago、Torre Stabeler、Torre Winkler)に引かれています。今日登るのは、3ピークのうち左側のTorre Delagoです。

山小屋からさらに峠へと通じる道を登り、途中で方向転換して岩峰への踏み跡に入り、トーレ・デラーゴをほぼ正面に見る位置でロープを結びました。

1ピッチ目はアプローチの延長で、半ば歩きのようにして南西アレーテの直下まで。

このルートが昨日までの各ルートと決定的に異なるのは、ピッチの切れ目ごとの支点が真新しく、しっかりと整備されていることです。これなら万一の場合の同ルート下降も怖くありません。

2ピッチ目がIV+とこのルートでは最難のグレードになっていますが、中間部の処理を誤らなければあとは簡単。全体として適正なグレーディングという気がします。

3ピッチ目は出だしでアレーテの左に入り、日陰になるとともにスリッピー。つるつるのその岩肌の滑りやすさに「やはり石灰岩はこうでなくては」と妙な感心をしながら登りました。それはともかく、このルートは大勢のクライマーを迎えているためか岩がおおむねしっかりと硬く、ルートファインディングの不安もなしに気持ちよく登れるのがいいところです。

あとは4・5ピッチ目ともIV級の易しいクライミングで高さを稼ぎ、最後のひと登りで快適にトップアウトです。

例によって明るく開け抜群の高度感を味わうことができる山頂の平坦部を進むと、向こうには隣のTorre Stabelerが間近に見えており、そのてっぺんにも何人かのクライマーが寛いでいる様子を見てとることができました。

下降はそのTorre Stabelerとの間のガリーへ懸垂下降4回(60mロープ1本)とクライムダウン。

再びRifugio Re Alberto 1°に立ち寄ってひと息ついてから、往路を下山しました。

これでドロミテでのクライミングは終了。ゲストハウスに戻った後、この日は当地の友人と会食があるというテオを送り出したら、一人でベッドに寝転んで4日間のクライミングの楽しさ・辛さとその間に見聞きしたドロミテの自然の雄大さを思い出していると、窓の外は時ならぬ豪雨となり、嵐のようなその気候は1時間余りも続きました。これはまるで台風直撃だなと他人事のように思いながら横になったまま窓の外を見やっているうちに、心地よい疲労のせいかいつの間にか睡魔に囚われていました。