チュクン・リ登頂
2025/11/09
△08:30 チュクン → △12:15-20 チュクン・リ → △14:10 チュクン
捲土重来!……と言うのは少々オーバーですが、今日は昨日途中までしか登ら(れ)なかったチュクン・リ(5546m)の登頂を目指します。

宿泊しているロッジの裏手を見れば昨日と同じ風景。ただ、上空の風が強そうです。

昨日と同じく緩やかな斜面につけられた道を、一歩一歩確かめるようにゆっくり登ります。おそらく普段親しんでいる高尾山などでのスピードの半分以下になってはいますが、しかし着実な足の運びにはっきりと体調が回復していることを感じました。どうやら昨日の下山後の十分な休養が効果を発揮したようです。

山体の右側面を斜上していた道は、標高5350mで稜線上の鞍部に出ます。そこから南西方向にほんのわずか登ったところにもフレンドリーな形のピークがあって、そちらに向かう踏み跡もありましたが、我々が向かうチュクン・リのピークは反対の北東側にさらに200m登った先です。そして、この稜線に出たところから冷たく強い風を受けるようになりました。

チュクン・リへの道は岩と雪のミックスになっており、ところどころ判然としない箇所もありましたが、先行するソナムは迷う様子もなくどんどん登っていきます。

ロッジを出発してから3時間半ほどでようやく山頂を目の前にしましたが、その手前の短い雪のパートにはちょっと緊張しました。見た目はなんということもない雪田ですが、実際には踏み固められた部分が氷化していてチェーンスパイクを装着していないシューズのソールではフリクションに不安があり、しかも万一左側に落ちると雪の斜面が相当の長距離続いていてただではすみそうにありません。いやー、ここは日本の登山ガイドならロープを出すところだなと思いながら恐々ここを通過しました。
チュクン・リの山頂に到着。今回の旅のテーマである「三つの峠」「三つのピーク」の1番目です。しかし、とにかく寒い!ので、そそくさとパノラマ動画を撮ったらソナムに「もう降りましょう」と声を掛けました。

振り返ればそこにあるアマ・ダブラム。その角度を見て、自分がそれなりに高い場所まで登ってきていたことを実感しました。視線を下げれば、1時間前に登り着いて風に吹かれ始めた鞍部も眼下に見えています。


先ほど緊張した雪のパートを下るのは嫌だなと口に出したら、ソナムはこれを左の岩の斜面から回避するルートどりで下っていきます。なんだ、そんな道があるのなら登りでもそちらを辿れば緊張せずにすんだのにと思いましたが、実はシェルパは氷化した雪でも苦にせずツボ足で上り下りできるということを、後日の2回の氷河横断で知ることになります。また、そうした能力を持たない標準的な日本人である私は、この山行を通じて「チェーンスパイクは常時リュックサックに入れておくこと」という教訓を得ました。
鞍部まで戻ってくれば一安心。ぐるっと見回すと先ほど登ってきたチュクン・リの先にヌプツェとローツェ、その右の遠くにはマカルー、そして南に目を転じればアマ・ダブラムが聳えています。こうして見るとこの鞍部の南西の小ピークは確かに見事な山岳展望台で、ピークハントにこだわりがないのであればチュクンからそこまでのハイキングでも十分に満足を得られそうです。

そんなことを考えながら下っていくと、今日ディンボチェからチュクンにやってきたばかりのチェパ隊と遭遇しました。合言葉はもちろん「日本の方ですか?」「奇遇ですね!」です。彼らはチュクン・リの頂上まで行くわけではないものの、少しでも標高の高いところに身体を置いておこうという考えからこの山の途中まで上がってきていたようでした。


ロッジに戻っての遅いランチは軽くチキンスープ、そしてゆっくり身体を休めた後のディナーはダルバートですが、うーん、このダルバートの寂しさは、イムジャ・コーラ流域の最奥のロッジにいることをひしひしと感じさせます。

しかし、外に出ればすばらしい夕景色が広がっていました。この眺めを見るだけのためにチュクンにおいでなさい、と人に勧めたくなるような景色でしたが、実はこのときチェパ隊の方は今後の予定について方針転換を迫られていたようです。もともとのプランでは島トリオはチュクン・リで高度順応の後にアイランド・ピークのBCないしハイキャンプ(以下「HC」)に向かい、一方Oさんは(ディンボチェから)ペンバに連れられてロブチェに移動してEBCやカラ・パタールで高度順応をした上で、アイランド・ピークを片付けたチェパの到着を待ちロブチェ・イースト登攀に臨むはずだったのですが、予報によればこれからしばらくは稜線上に風速20m/sの強風が吹き続けるようで、このままアイランド・ピークに向かうのはとても無理。このため明日は全員でディンボチェ経由でロブチェに向かうことにしたそうです。と言うことは、ロブチェ・イーストが目的であるOさんはともかく、島トリオはチュクンからロブチェに行ってそちらでのアクティビティ(EBCとカラ・パタール)をこなした後、再びぐるっとチュクンに戻ってきてアイランド・ピークを目指すタフなスケジュールになるわけです。厳しいなぁ、大丈夫だろうか?とこのとき私の頭の中では島トリオの行く末に対する不安が頭をもたげていたのですが、結果的に彼らがこの一見迷走とも思える行程をこなしてアイランド・ピークの登頂を実現したことを知ったのは8日後のことでした。