塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

パノム・ルン / ムアン・タム

2000/07/23

今日は、このツアーのメイン・イベントであるパノム・ルンを訪ねる日です。

ピマーイより後、アンコール・ワットより前に建てられたとされるパノム・ルンは、イサーンに残るクメール遺跡の最高峰と言われ、なだらかな低い死火山(標高242m)の山上に偉容を誇っています。このことからも想像がつくように、パノム・ルンの「パノム」はプノンペンの「プノン」と同じ「丘」という意味。コラートから車で2時間ほど走り、そのまま坂を登っていくとパノム・ルン史跡公園の入口に着いて、参拝前の王が衣裳を替えたところとされる建物跡を右に見ながら進むと突然正面に参道が現れ、その向こうに階段を登って高く、パノム・ルンの祠堂が見えてきました。

参道を進み、背中のウロコが妙にリアルなナークが飾られた手すりつきの階段を登って回廊をくぐると内院で、こちらは中央祠堂も赤い岩で作られていました。この中央祠堂は建物の規模も素晴らしく、入口の上を飾るレリーフの美術的価値も凄いものがあります。アンコール・ワットの壁面レリーフは全体に彫りが浅いのに対し、ここのレリーフはバンテアイ・スレイのそれと同様に深い彫りが特徴的。

とりわけ祠堂の正面入口上部に飾られている「水上で眠るナーライ神」のレリーフは、一時盗まれて米国に流出していたのを大衆運動の盛り上がりもあって取り戻したものという逸話つき。そして中央祠堂の中には、三つの目を持つ破壊の神シヴァの象徴であるリンガ(男根をかたどった石)が置かれ、そこに注いだ聖水が流れ出るように溝が北側に向かって仕組まれていました。

遺跡の中では各国からの観光客やバックパッカーが盛んに写真を撮っていましたが、オレンジ色の衣に身を包んだ若い僧侶たちがすっかり観光客モードに入ってお互いにカメラに向かってポーズを作っているのには爆笑しました。僧侶もまた人の子というわけです。

いくら時間があっても見飽きないところですが、後の予定もあるので後ろ髪を引かれつつ回廊の外に出ると、階段上のテラスから右(南)にイサーンの平原の広がりが見渡せ、さほど遠くないところに山脈が走っているのが見えました。あれはイサーンとカンボジアを分かつドンラック山脈であり、3日前に訪れたプレア・ヴィヒアもその上に乗っているのです。このテラスからはさらに、パノム・ルンからほど近いところに比較的大きな四角い池が見えました。サイチョルが「あのバライの横にムアン・タムがあります」という説明にはなるほどと納得。アンコール・トムの東西に巨大なバライがあったように、あれは灌漑用の貯水池です。

パノム・ルンから車で少し走ったムアン・タムもきれいに整備された公園になっていましたが、人影まばらで静かな雰囲気がこれはこれで好ましく感じられました。大きな木に囲まれた外部回廊から中に入ると内部回廊を包囲する四つの濠池があり、これは大海に囲まれた須弥山(メール山)のモチーフで、アンコール・ワットと共通のものです。

正面から内部回廊の門をくぐると中には四つの塔が建っていて、サイチョル曰く、それぞれシヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマー、ラクシュミーを祀ったものだそうです。10-11世紀に建てられたというムアン・タムは、規模ではパノム・ルンに劣りますが、落ち着いてクメールの栄華を忍ぶには好適の遺跡でした。

昼食は、昨日に引き続きイサーン料理です。その量から推測するにサイチョルは我々の胃の容量を過大に評価しているようですが、なにしろおいしいので「あー、苦しい」と言いながらがんばって食べ切りました。

午後は遺跡を離れて、イサーンの工芸品を訪ねました。まずシルクの産地として有名なパクトンチャイへ行きましたが、ちょうどお昼時で機を織る人はいません。織機だけ見せてもらいましたが、どうやら糸にあらかじめ決められた順番と長さで色を着け、それを織り上げていく方法のようです。つまり、模様を作るのに色の違う糸を組み合わせるのではなく、最初から模様ができることを計算した染めが施された糸を組んでいくわけで、非常に高い精度が必要になるわけです。さらにシルク・ショップでのお買い物タイムで、私はすぐに飽きてしまいましたが、ユウコさんは目を輝かせて次々に絹布を見て回り、赤紫地のきれいな布をさんざん価格交渉した末に3,500バーツでお買い上げ。この店ではせいぜい15%までしか下げてくれないのですが、それでもバンコクで買えばこの3倍はする、とほくほく顔でした(帰宅してからのエトさんの査定でも「いい買い物だ」と合格点をもらえました)。ついで足を運んだのは焼き物の店が並ぶダン・クウィアンで、ここで私はクメールの建物を特徴づける赤い砂岩の小さな彫り物を買いました。

これでツアーは終了となり、車で空港まで送られ、サイチョルとジャニーズ運転手に別れを告げて、TG063便で夕方のバンコクに帰り着きました。


夜、ユウコさんの運転する車でスクンビットの24-26にある複合商業施設Emporiumに向かいました。ここでアンコール・ワットの写真集やら土産のJim Thompsonの象のぬいぐるみやらを買いましたが、実は主たる目的はトム・クルーズ主演の映画『Mission Impossible 2』(タイ風の読み方は『ミッション・インポッシブル・ソン』)を見ることです。

大きな映画館の椅子はふかふかで座り心地抜群、しかし深夜なので客はまばら。予告編やコマーシャルが延々と続きましたが、携帯電話のCMでその頑丈さをアピールするために携帯電話をすりこぎみたいにしてがんがんソムタムを作るシーンが出てきたのには笑いました。そしてひと通り予告編が終わったところで、突如国歌が流れ観客全員が起立しました。我々もあわてて起立したところ、画面には王様のお姿が大写しにされ、荘重な雰囲気を漂わせました。肝心の映画本編の方は、当たり前ですが英語のセリフにタイ語の字幕でよくわからないところも多かったのですが、なかなか楽しめました。特に最後の場面で、砂に埋もれた拳銃を砂の中から垂直に蹴り上げるシーンは最高です。また、最初の方に出てくるフリークライミングのシーンも、真横へのランジの前までは本物らしく凄いと思いました。