パンボチェ〜ディンボチェ

2024/10/19

△08:30 パンボチェ → △11:35 ディンボチェ

この日の朝は、この旅が始まって以来一番と言える快晴でした。これはすごいとベッドから跳ね起き、ロッジを出て近くの斜面の途中まで上がって見回してみると……。

文字どおり雲一つない真っ青な空の下に、ヌプツェ越しのエベレスト、ローツェ、そしてアマ・ダブラムがそびえています。朝日が右から左へと差し込んでいるために陰影がくっきり出ないのが残念ですが、それでもこのようにアマ・ダブラムの姿を眺めることができたことは喜ばしく、そしてようやく真剣に登攀ルートを目で追うこともできました。

目を右(南)に向けると、昨日は荒々しい雲に巻かれながらもベーカリーの窓から見えていたカンテガとタムセルクが、今日は全貌をあらわにしています。

日本人の感覚からするとかなり太麺なスパゲティを朝食として、ゆっくり8時半にロッジを発ちました。この日はアマ・ダブラムの前を通り抜けて、イムジャ・コーラの上流に位置するディンボチェまでの短い行程です。

ディンボチェへ向かう道はイムジャ・コーラの右岸についていますが、明後日にはここに戻ってきて対岸に渡り、アマ・ダブラムBCに入る予定。谷の切れ込みの深さが少々気になりますが、実はゾッキョの運搬部隊が上り下りできるほどしっかりした道がつけられています。

それにしてもこの道の開放的な雰囲気はすてきです。もちろん6年前にもここを歩いているのですが、トレッキング道としてはエベレスト街道の中でも有数の気持ちの良い区間だと再認識しました。ただし強い乾燥と粉塵とのために呼吸器系には優しくない環境なので、ナムチェバザールで買い求めたバフで鼻と口とをしっかり覆い、そして歩行中も水の補給を欠かしてはなりません。

そうした留意点はあるものの、道端にはこのようにブルー系の花が咲いていたりしてさらに心が癒されます。

イムジャ・コーラが二俣に分かれる場所が近づいてきました。ずっと奥に見えている一際高い山はローツェで、ここまで近づくとエベレストの頂上は手前のヌプツェの陰に隠れてしまいます。ローツェの方向に向かって伸びている谷筋はイムジャ・コーラの本流で、その行き着く先はイムジャ・ツェ(アイランドピーク)ですが、イムジャ・コーラの右岸の斜面に見えている道を向こう側に回り込んだところにはもうディンボチェの集落が広がっています。そしてその左奥の黒っぽい山に向かって薄茶色の道がついているところが明日高度順応のために登るディンボチェ背後の丘で、そのずっと手前でディンボチェ方面へ向かう道から分かれて左に向かう道がわずかに登った先は2018年のトレッキングの帰路にそこを通ってあまりの眺めの美しさに惚れ惚れしたペリチェ峠です。

左俣(クーンブ・コーラ)に架かる橋を渡ってイムジャ・コーラ本流右岸の道を緩やかに登りながら、チリンの目は対岸につけられたトラバース道を眺めています。明日ディンボチェでの高度順応を終えた後、明後日には再びこの川沿いを下ってからアマ・ダブラムBCへ上がることになるのですが、右岸の道を下りパンボチェまで戻った上でBCへ上がるよりも左岸の道を使ってダイレクトにBCを目指す方が疲労が少なくてすむからです。

しかし、ディンボチェを目の前にしたところでチリンの期待は外れ、イムジャ・コーラを対岸に渡る橋が架けられていないことが判明したために、やはり明後日は今日歩いた道を戻ることになりました。もっとも、私も対岸の様子を窺っていたところ数箇所で大規模なガレが生じてトラバース道が寸断されているように見えていたので、自分としてはこの結論にむしろ胸をなで下ろしていました。

ここまで進むとアマ・ダブラムの見え方がまるで変わってきます。南から見たアマ・ダブラムを特徴づけるのはその北西に伸びる吊り尾根状の優美なリッジですが、ディンボチェからではこのリッジをほぼ正面やや北寄りから見ることになるため、アマ・ダブラムの前面に巨大なリッジが立ちはだかっているような形になり、とても雄大な山だという印象を受けることになります。

パンボチェを出たのはかなりゆっくり目の時刻でしたが、それでも正午前にはディンボチェに着いてしまいました。少し雲が出てきたようですが、この時点では相変わらずローツェ方面の見通しがよく、その手前には黒々として以前遠望したときとは印象が異なるアイランドピークの姿も見えています。些か古めかしく見えるロッジEverest Resortに入って部屋に荷物を入れ、サンドイッチで腹ごしらえをした後は自由時間ですが、6年前と同じく今回も一人でディンボチェからロブチェ方面へ向かう尾根越えの道を上がってみることにしました。

14時にロッジを出るとあいにくガスが広がり始めていましたが、高度に身体を慣らすことがこの散歩の目的なのでその点は気にせず、ディンボチェの入口に位置する仏塔から尾根に上がりました。ここでもゆっくり息が上らないように一歩一歩足を上げ続け、ディンボチェの集落を見下ろす高さに着いたところで腰を落ち着けました。

できることなら1時間ほどもそこにいたかったのですが、日が遮られて気温が下がってきているために滞在は20分ほどで切り上げて、ディンボチェからロブチェへ向かう道が尾根上を横切る場所まで戻ったら左に折れて周回ルートでロッジに戻りました。

さて、パンボチェからディンボチェまでほとんど平らな道を歩いてきたかのように書いてきましたが、ディンボチェのロッジの標高は3940m、ディンボチェのロッジの標高は4300mです。つまりこの日の夜は、この旅の中で初めて4000mを超える標高での就寝となったわけです。

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