マンタリ停滞
2024/10/14
6時半にホテルを出て、テンプー(トゥクトゥク)に乗って勇躍ラメチャップ空港へ向かいました。今日はここからルクラに飛んで、ルクラで食事をとった後にトレッキングを開始する予定です。ところが、いよいよ本格的な旅の始まりだと気合十分の私とは対照的に、優斗とチリンは空を見上げて浮かない顔をしています。
その理由は空港に着いたところですぐにわかりました。薄ぼんやりした雲が周辺を覆っていて飛行機は飛び立てておらず、空港の前はフライト待ちの人々でごった返している状態です。エベレスト街道トレッキングの最初にして最大の関門は昔も今もルクラ行きの飛行機が飛ぶかどうかですが、ここマンタリでもその事情はカトマンズと同様で、ここ・ルクラ・両者の途中のどこかが雲に覆われているとお手上げになってしまうのです。
昨日フジホテルでの朝食時に少し言葉を交わした日本人パーティー(目的地はメラピーク)も空港前で所在なさげに立っており、聞けば6時半出発の予定だったのにそのための機体が着いてもいないということです。我々はさらに1時間後の便を予定していたので、これはここで待っていてもダメだと諦めて近くの軽食カフェに入り、ルクラでとるはずだった朝食をそこでとることにしました。それでも我々が食事を始めると共に飛行機が離陸していく音が聞こえたので「おっ、これは可能性があるかな?」と一瞬期待したのですが、結局それらの飛行機は航路途中の悪天候に阻まれてルクラに辿り着けず、後でラメチャップ空港に戻ってきてしまいました。
手持ち無沙汰な様子の飛行機と荷物と人たちの間にそこはかとなく漂う無常感。チリンのスマホから流れるオンマニベメフム・メディテーションソングはいささかいらついた様子の他の観光客から「音量を下げてくれ」と言われてしまい、他にすることもなく食後のコーヒーを追加し、それを飲み干したらコーラに切り替えて、これを空にしても事態は一向に進展しません。
5時間近く粘った末の11時半頃、今日のフライトは断念してマンタリにもう1泊することに決し、同様に空港を離れようとしている他のパーティーが手配した車に便乗させてもらって町へ戻ることになりました。うーん、残念。
昨夜泊まったホテルのレストランで昼食をとったものの、部屋の方は我々と同じようにマンタリに延泊することになった他の客に押さえられてしまっていたので、チリンが近くにあるローカル色の強い宿を見つけてくれてそちらに荷物を運び込みました。もっともローカル色の強さをとりわけ意識させられたのはトイレの形式(いわゆる洋式ではないしゃがむタイプ)に限っての話で、Wi-Fiはきちんと使えるし電源コンセントもユニバーサルタイプなのでアダプター不要となかなか便利。ついでに書いておくと(ガソリン代が高いせいもありますが)町中では電気自動車や電気バイクが盛んに用いられておりこれらのための充電スタンドも整備されていて、こと「electricity」に関してはネパールの先進性を感じる場面が少なくありませんでした。
他にすることもないので宿の1階のレストランでビールを飲んでいると、後発のBCスタッフ部隊が到着しました。彼らは我々がトレッキングをしている間にアマ・ダブラムBCに先乗りしてテント等を設営し、そこで我々を迎えてくれる手はずになっているのですが、計画どおりにBCに入れるかどうかはこれまた飛行機次第というところです。
彼らとの一連の挨拶を終えて落ち着いたところであらためて、今後の行程について優斗・チリンと話合いをもったところ、ここでガイド二人の意見の相違が明らかになりました。すなわち、本来の計画ではルクラからナムチェバザールを経てアマ・ダブラムの足元にあるパンボチェまで達した後、いったんそのままイムジャ・コーラ上流のディンボチェまでトレッキングを続けてそこで近所の5000mの丘で高度順応をしてから、同じ道をパンボチェに戻ってBCへ上がることになっているのですが、このマンタリで日数を費やしてしまった場合はディンボチェへ行くことなくただちにBCに上がって、そこで高度順応に取り組んでもいいのではないかというのがチリンの意見(実はGH社のサイトに掲載されている「Mt. Ama Dablam Expedition」の標準行程もそうなっています)。かたや優斗の方は、1日の登り標高差を大きくしすぎないようにするために当初の計画どおりディンボチェで高度順応を行い、その後にBCへ向かいたい意向です。私はと言えば、行程管理はプロである二人に任せるほかはないのでとにかく登頂確率を高めるためにベストの方法を二人で話し合って決めてほしいというスタンスですが、一点だけこだわりポイントとして優斗に伝えたのは「酸素ボンベの力を借りて登るようでは自分にとってのこの山行は失敗だと思っている」ということでした。なぜなら、自分が8000m峰に興味を示さずアマ・ダブラムを目標とした理由のひとつは、それが酸素ボンベの力を借りずに登ることができるぎりぎりの高さであることに魅力を感じていたからです。このことについては、その後トレッキング中やBCに着いてから、さらにはサミット・ローテーションに入ってからも三人で話し合い、そして自分の考え方もときに揺らぐことになりましたが、その点はおいおい明らかにしていきます。
ビールを飲み終わったら自室に引き上げ、天井の扇風機がぶんぶん回って寒さすら感じさせる部屋でしばらくKindle端末での読書にいそしみましたが、本来はBCでのレストのときに使うはずだったKindleをこのタイミングで引っ張り出すことになろうとは思ってもいませんでした。ともあれ夕方になったところで再び1階の食堂に戻って、宿のローカル色に合わせて夕食はダルバートとし、こうしてマンタリでの想定外の2泊目が過ぎていきました。