チューリッヒからツェルマットへ

2003/07/18

今日はチューリッヒからツェルマットまでの移動日です。ホテルで朝食をとってから、おもむろに荷物を引いてチューリッヒ中央駅へ。どこが切符売場かきょろきょろしていましたが、何となく人だかりができている窓口へ行ったら正解で、乗継ぎ駅のブリークまで片道・二等席でCHF76でした。だいたいの駅がそうらしいのですが、ホームはAからDまでの「セクター」に分かれており、どのセクターが一等でどこが二等かが頭上の掲示板に表示されています。もちろん車両にも数字で表記がされていて、二等車を探し当てて乗ってみると社内はほぼ満員。かろうじて空いている席を見つけて座り、出発を待ちました。客層がお年寄りと若者に二極化しているのは、今日が平日(つまり壮年は仕事)だからでしょうか。社内放送は独・仏・英の順にテープで流されており、やがて列車は9時22分に定刻通り発車しました。

チューリッヒからベルンにかけては、森、牧草地、麦やとうもろこしの畑、なだらかな起伏の大地に独特の傾斜の強い屋根の民家が集まったり散らばったりする車窓風景でしたが、さらに南下するにつれ湖や岩山が現れ、やがて深い谷筋の中腹をトラバースするように列車が進むようになるといよいよスイスらしい景色となってきました。特にベルナーオーバーラント地方のカンデルシュテークの駅は雪を戴いた高い岩山と草原が目の前に迫っていて、それ自体一見の価値があります。しかし列車はすぐに長いトンネルに入って、抜ければいよいよそこはヴァリス州。東西に走るローヌ谷を中心とし、南でイタリアと接している山岳地方です。

11時に終点のブリークで降りて快晴の駅前に出ると、右前方に見間違えようがないほどに真っ赤な車両が止まっていて、これがBVZ登山鉄道でした。ところが乗り換えようとそちらへ歩いて行くと、列車の手前で通りがかりの上品なご婦人に呼び止められました。「ジャポネ?」と聞くので「Yes.」と答えたらどういうわけか「オー!」とつぶやいて去って行きましたが、いったい何だったんでしょう?いきなりの奇妙な歓迎にとまどいながら登山鉄道に乗り、ここから1時間20分(CHF67)でツェルマットに到着しました。列車が駅に滑り込む少し前に、窓から想像以上に高い位置にマッターホルンの頂上部がはっきりと見えて、これには感激しました。

今日から1週間お世話になるホテル・カリーナは、駅から少し戻るように歩いて右折し、川を渡って少し上ったところにある比較的こじんまりしたホテルでした。小さなカウンターで迎えてくれたのは女主人のカルメンさんで、流暢な英語でチェックインの手続をしながら気さくにいろいろ教えてくれました。3階にある私の部屋はシングルでとても小さいのですが、木目の壁や装飾の梁がスイスらしくとても清潔で、いっぺんで気に入りました。ともあれ、荷物をザックやバッグから出して整理をつけてから、早速外に出てみることにしました。

ツェルマットは、氷河が作った谷底の村。標高1600mほどの村の中心を氷河から流れる白濁した激流のマッターフィスパ川が流れ、谷のどんづまりにマッターホルンが聳えています。もちろん高山はマッターホルンだけではなく、周囲は4000m級の山々にぐるりと囲まれており、谷底から登山鉄道やケーブルカー、ゴンドラなどを使ってその近くまで簡単にアクセスすることができます。

今日はとりあえず村の地理概念をつかむことが目的の散歩なので、カルメンさんにもらった地図を読みながら川沿いに上流方面へしばらく歩いてみて適当なところで右折すると、そこは丸い石のねずみ返しがついた高床式の古い穀物倉群が建ち並ぶなかなかいい感じの一角でした。

ここから村の目抜き通りであるバンホフ通り(訳すと「駅前通り」)に出て、さらに左(上流側)へ歩いて行くとちょっと狭い道を抜けて教会前の広場に出ました。教会の裏手にはマッターホルンで命を落としたと思われるクライマーたちの墓地があり、中にはピッケルが飾られた墓碑もあったりしていかにもそれらしい雰囲気です。さらに歩いて、北壁にちらほら雪がついているマッターホルンを見上げる村外れまで、ホテルからゆっくり歩いて30分余り。実にこじんまりとした村であることがわかりました。最後にシュヴァルツゼーへ行くゴンドラ駅の位置を確認した上で、ホテルへ戻ることにしました。

15時50分、パウダーバーンのIさんがホテルに来てくれました。よく日に焼けて元気いっぱいの小柄な日本人女性で、ツェルマットに6年間も住みついているというIさんと初対面の挨拶を交わすと、その彼女に連れられてバンホフ通り沿いの駅と教会の間くらいにあるアルピンセンター(山岳ガイド組合:The Zermatt Alpin Center)に出向きました。窓口に座っていたのは若くて眉毛が印象的なほっそりスイス美人のマヤ(Maya)という人で、彼女にあらかじめ予約してあるリッフェルホルンの手配書を示し、あわせてマッターホルンの状況を聞いてみると「明日からオープンになります」とのこと。ありがたい!

手続を終えてアルピンセンターの外に出てから、水や食料を買える場所とインターネットカフェの場所を訊ねると、Iさんはオレンジ色のMMマークが鮮やかなスーパーのミグロ(MIGROS)までわざわざ私を連れて行ってくれました。ほかにCOOPも駅の近くにありますが、ミグロの方が若干お買得なのだそうです。そしてインターネットはミグロの向かいのスポーツ用品店の地下で使え、1階の受付でインターネットを使わせてくれと言うと利用できるPCのナンバーを知らせてくれて、終了後に使った時間に応じて料金(30分でCHF7)を支払う仕組みでした。Iさんと別れたら早速ミグロで明日の行動食を買い求めることにし、生鮮食品や肉・乳製品が充実した店内でミネラルウォーターとパン、チーズ、りんごを買ってからホテルに戻りました。

夜は、これもIさんに教えてもらったレストラン「ヴァリザー・カンネ」に行ってみました。はっきり言って一人でレストランに入るのは気が重いものですが、せっかく初めてのスイス旅行なので、名物のチーズ・フォンデューとラクレットは逃すわけにいきません。今日はフォンデューを食べてみることにして、まずはソーセージとチーズの乗ったサラダ、さらに白ワインとトマト味のフォンデューをオーダーしました。ところが出てきたサラダはそれだけで3人前はありそうな量で、これだけで腹いっぱい。続いて出てきたフォンデューはパンではなく小ぶりなじゃがいもにトマト味のチーズをかけて食べるもので、そのじゃがいもの数も半端ではなく、食べ終わったときには腹が膨れてすっかり苦しくなってしまいました。

食事を終えた21時、レストランを出て腹をさすりながらホテルに向かう道すがら、振り返るとマッターホルンの北壁側が夕日に染まっています。美しいその姿を見上げながら、ひそかに心に誓いました。

「明日からは、ミグロで食材を買ってホテルの自室で食べよう……」

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