レンジョ・ラ越え
2025/11/16
△06:35 ゴーキョ → △10:00-10 レンジョ・ラ → △13:10 ルンデ
今日はいよいよ「三つの峠」の最後を飾るレンジョ・ラ(5360m)を越えて、ルンデまで歩きます。

ロッジを6時半に出発したところ、背後から「行ってらっしゃ〜い」という女性の声がかかり、振り返るとロッジの窓越しにハイジさんたちが手を振ってくれていました。ありがとうございます。
道はチュクン・リの足元をトラバースしていきますが、湖面に対岸の岩峰が映りこんでとてもきれいです。
道端にはチュクン・リやコンマ・ラへの道でもたくさん見かけた鳥=コンマが群をなしていました。日本の雷鳥とは違い鳴き声は「キョッキョッ」といった感じで可愛らしく、また盛んに羽ばたいて低空を飛びます。しかもほぼ例外なく丸々と太っていて、つかまえて食べたらおいしそうだという邪念が生じるのですが、この鳥に手を出したらバチが当たるということになっているのだそうです。残念……。

湖を離れてもしばらくの間はほぼ水平に進みますが、早々に雪が斜面を覆うようになります。10月末の雪はこのあたりでも大量に降ったようで、ソナムからは一昨日ゴーキョに着いたときに、ロッジが1軒雪に潰されてしまいゴーキョ全体の収容力が低下しているために相部屋になるかもしれないと言われていました(結果的にはゴーキョも含めて全期間、二人部屋を一人で使わせてもらいました)。

やがて道は斜度を増すようになり、雪も厚くなってきたのでチェーンスパイクを装着しました。

しばらく登った後に、傾斜が緩んで雪原が広がります。レンジョ・ラは前方右寄り方向にあり、ルートは雪原の中ではなく右斜面に付けられた踏み跡を辿ってもう一段上がるようになります。

あと少し。峠にはためくタルチョが見えてきました。


チョ・ラのときと同じように、雪の階段を一歩一歩登って大勢のトレッカーが待つレンジョ・ラへ到着しました。これで、今回の旅の目的であった「三つの峠」と「三つのピーク」のすべてを登り終えたことになります。

レンジョ・ラから見たエベレスト方面。中央の湖はゴーキョで、その上の最も高い山はもちろんエベレストです。出発前にデンディさんが「ゴーキョ・リよりレンジョ・ラの方が眺めがよいのだから、日程が足りなくなったらゴーキョ・リを省略しても問題ない」と言っていましたが、確かにここからの眺めはゴーキョ・リからの眺めをさらに雄大にした感じです。でもデンディさん、我々トレッカーにとってピークに登るということにはやっぱりそれなりの意味があるんですよ。

こちらは峠の向こう側。眼下に湖があり、道はその左を通って緩やかに下っていきます。
例によって360度パノラマ動画。さらばエベレスト、さらばマカルー、さらばチョラツェ。


下り道の雪はよく踏み固められており、ところどころには階段が露出していて、チェーンスパイクでも不安なく下れました。

湖まで降りたところから振り返り見たレンジョ・ラ。見知った山々の姿が見えなくなって、今まで馴れ親しんできた世界から急に切り離されたような不思議な気持ちになります。

20分ほど下ると、湖から流れ出した水が幅広い谷の中で蛇行する川を作る大きな地形を見ながら、その右脇を歩くようになりました。ここは雪がかぶさっていなければ広々とした草原が気持ちのよい場所であるに違いありません。

この地形の中を歩きながら、つい何度もレンジョ・ラを振り返ってしまいます。どういうわけかこのレンジョ・ラが、最初に越えたコンマ・ラやその次に越えたチョ・ラ以上に愛着を覚える峠になっていました。

やがてレンジョ・ラは見えなくなり、左下の谷が前方のもっと広い谷へと落ち込んでいく場所に出ました。この場所から見る山や谷のヒマラヤらしい雄大さと自分がいる場所の高度感とはとても魅力的だったのですが、写真ではとてもその魅力を伝えられません。


さらに下った先の平坦地には石組みが現れ、さらに石小屋も建っていました。ソナムの解説によればこの場所もヤクの放牧地になっているということで、そう聞かされると夏のこの場所の姿も見てみたい気がしてきます。

やがて、今日の泊まり場であるルンデのロッジや畑を見下ろす場所に出ました。ルンデの標高は4300mと4400mの間で、日本的感覚からすればまだまだ高いのですが、ここから先はひたすら標高を下げていくことになります。そしてこの谷を流れる川はナムチェバザールの下でドゥード・コシと分かれていたボーテ・コシで、これを目にすると心の底からほっとする気持ちが生まれました。ナムチェバザールに通じる谷を見下ろしたことで、もはや旅の終わりが遠くないことを実感できたというわけです。
斜面の中腹から谷の上流を見通すと、突き当たりの右端に白いチョ・オユーが見えています。そしてこの谷は、チョ・オユーの西にあるナンパ・ラ(5806m)を越えてチベットから物資が運びこまれ、こちらからはラサを目指す人々が峠を越えるために旅をする、交易路であり巡礼路であったところです[1]。


地図上では小さな村に見えたルンデですが、ここでもロッジ新築競争が進んでいるらしく、我々が投宿したRenjo Pass Support Lodgeは新しく清潔で、気持ちのいいロッジでした。また、我々のほかにはドイツ人らしき団体が泊まっていて、ダイニングルームの中央を使ってガモフバッグの実演講座を開講しており、明日はここを5時に出てレンジョ・パスを越えるということでした。なるほどルンデからレンジョ・ラまでは標高差が1000mもあり体力的にも高度順応の面でも厳しいものになっている上に、ここに来るまでの間に5000mを越える高度順応を行う機会がありませんから、ガモフバッグを用意するのも頷けます。スリー・パス・トレックは、できることなら(マニ車を回す方向と同じく)時計回りで回りたいところですが、私が歩いた反時計回りの方が有利だとされているのはこの点に理由があります。
なお、ここの女主人はソナムのいとこでしたが、だからと言ってWiFiカードが安くなるわけではなかったので、今日は通信なしで過ごすことにしました。明日、標高を下げていけば長らく眠りについていたiPhoneのSIMカードが息を吹き返すはずなので、気になるチェパ隊の動向を知るのはそれまでお預けです。


部屋はコテージ式(個別にトイレあり)、ダルバートは質素ながらも美味。この標高まで下がってくればもうアルコールを飲んでもよさそうですが、手持ちのルピーが少ないこともあってビール解禁は明日のナムチェバザールまで持ち越すことにしました。