ギルマンズ・ポイント - キボ・ハット - ホロンボ・ハット

2002/01/02 (3)

10分ほど待ったところで、白人の登山者がウフルの方角からたった1人でやってきました。「登ったか?」「ああ」「おめでとう!」と握手。やがて、A氏、H氏、若いK氏、Kさん、ジョワキムとデブリンの6人がやって来るのが見えたので、彼らのギルマンズ・ポイント到着を待ち、一緒に下ることにしました。ガイドの2人を除く4人はかなり苦しそうで、やっとギルマンズ・ポイントに着くと言葉もなく座り込んでしまいました。しばらく休憩をとりましたが、若いK氏が「下り始めてもいいですか?」と声を上げたのを機に、全員下降にかかることにしました。ここから少しの間は岩がちの下り道ですが、すぐに砂走りのような斜面になって道はここをジグザグに下るように付けられており、ガイドが先頭に立ってゆっくり下り始めました。私は皆が下る様子を写真に撮るため脇道にそれ、写真を撮り終えたところで追いつくために直下降で下りました。ヒールでのキックステップに慣れていればこの斜面は問題なく真っすぐに下れる程度の傾斜で、そのまま皆のいる場所よりもさらに下、先行しているガイドがいるあたりまで一気に高度を下げました。

そのとき、まったく唐突に若いK氏が私の右をもの凄い勢いで真っすぐ下るのが視界に入ったと思ったら、その先でもんどりうって前に転んでしまいました。傾斜のために回転はすぐには止まらず、2、3回転げ回ったところでやっと落下が止まり、私と山の経験豊富なA氏、それに後ろについていたガイドが慌てて若いK氏のもとに駆け寄ると、意識もありどうやら怪我もなくすんだ様子でほっとしました。しかし若いK氏の口調は夢から目が覚めたような感じで、記憶が飛び飛びで自分でも何が起こったのか把握できていない様子です。そこで、ここからガイド2人が若いK氏の荷物を預かった上で左右から肩を貸し、3人横一列で真っすぐ下って行くことになりました。私も介添えでそのまま3人について下り、一方A氏とH氏はKさんを守ってジグザグ道通りにゆっくり下ります。当然直下降の4人と残る3人との間にはどんどん距離の開きができてしまうので、ガイドたちはある程度高度を下げたらそこで立ち止まって後続が視界に入るのを待つ、ということを繰り返しました。しばらく下ると今度は下の方に先行しているトモコさんの姿が見えましたが、トモコさんは斜面の途中でぐったり横になっている様子です。おいおい、トモコさんまでもか?と愕然として駆け下ろうとした瞬間に、トモコさんがむっくり起き上がって再び歩き始めるのが目に入り、力が抜けました(しかし後で聞くと、トモコさんも山頂への往復の間に5回も吐いたとのことでした)。

ハンス・メイヤーズ・ケイブで後続を待っている間に若いK氏に話を聞いてみましたが、どうやら彼はギルマンズ・ポイントを下り始めた頃からほとんど無意識で歩いていて、そこで私が直下降しているのを見た途端に本能的につられてしまって、自分も真っすぐ斜面に突っ込んでいったようです。「大丈夫です。ここからは自分で歩けます」と言っていましたが、ガイドたちは若いK氏が足にきているからしばらくはサポートが必要だと言い、結局さらにだいぶ下ってキボ・ハットも近づいたところで若いK氏はようやく自力歩行を許され、ストックの力も借りて下ることになりました。

こうして、ウフル・ピークに到達した6人は11時すぎから12時すぎまでの間にばらばらにキボ・ハットに帰り着きました。キボ・ハットでは、ギルマンズ・ポイントから下山したB氏とM氏、それにブライソンが待ってくれていて、部屋にはオレンジジュースが差し入れてありました。予定では正午には次の登山者のために部屋をあけなければならないのですが、A氏たち3人の到着にはまだしばらくかかりそうなので、ブライソンに頼んで30分だけ休息と準備のためのゆとりをもらいました。ブライソンは「何か暖かいスープか食べ物を作らせようか?」と言ってくれましたが、先に着いていたメンバーはものを口に入れる元気もなく、また時間にゆとりもないため、厚意に感謝しつつそれは断りました。

簡単に詰替えを行ってポーターに荷を預け、12時半すぎから三々五々ホロンボ・ハットへの下山を開始しました。登りは一歩一歩呼吸を確かめながら歩いた道も、下りはてくてく足に任せて進みます。1時間ほどでサドルの標識を過ぎたあたりから霰が落ちてきて、そのうち乾期だというのに雪混じりの雨になりました。雨具を持っていないKさんにはブライソンがポンチョを貸してくれて、どうにか不快な濡れ方はせずに歩いて行くと、乾燥帯の終点の手前で向こうから早川TLが歩いてくるのに出会いました。意識を混濁させたK氏をホロンボ・ハットに下ろし終えた彼は、一同を出迎えに再び登り返して来たのでした。早川TLは既に先行していたメンバーから我々の登頂の話を聞いていて、我々一人一人に握手を求めてくれました。その後しばらくで雨は上がり、ラスト・ウォーター・ポイントを経てホロンボ・ハットに帰着したのは15時半。やっと長かった一日が終わりました。

ホロンボ・ハットではK氏が元気な姿を見せてくれて安心しましたが、後日間接的に聞いた話では、キボ・ハットで眠る際に睡眠誘導剤を服用したところ、それが予期せぬ効き方をしてしまったそうです。その前の日まででも、K氏は寝る前には焼酎のお湯割りを飲んでいましたから、ナイトキャップなしには眠れない体質になっていたのかもしれません。

その日の夕食は、まるでお通夜のように静かなものになりました。登頂できた者とできなかった者とのお互いの遠慮もありましたが、それ以上に高所でのダメージと10数時間にわたる行動による疲労が、全員の口を重く閉ざしてしまっていたのでした。私も食欲があまりなく、出されたものを申し訳程度に口に入れて食事を終え、自分のコテージに戻ってシュラフに入ると、あっという間に眠り込んでしまいました。

▼この日の行程
09:30-10:00 ギルマンズ・ポイント 5682m
10:35-50 ハンス・メイヤーズ・ケイブ  
11:45-12:40 キボ・ハット 4703m
13:40 サドル  
14:40 ラスト・ウォーター・ポイント  
15:30 ホロンボ・ハット 3720m