ウフル・ピーク往復
2002/01/02 (2)
06:05-40 ギルマンズ・ポイント → △08:25-50 ウフル・ピーク → △09:30-10:00 ギルマンズ・ポイント
A氏やトモコさんらに「さぁ、ウフルへ行きましょう!」と声を掛けたところ、A氏たちは疲れている様子ではあるもののまだまだ大丈夫。そしてここで一番意欲を見せてくれたのは、意外にもずっと調子が悪そうだったKさんでした。しかしジョワキムは「もうすぐブライソンが上がってくるから、少し待ってくれ」と我々を制止しました。見ればブライソンが、遅れたM氏をサポートしながら下からゆっくり上がってきています。M氏は山頂手前の段差のある道に難渋している様子でしたが、最後は我々が腕をとって引き上げるようにしてギルマンズ・ポイントに登り着きました。登りの途中で別れてからかなりの時間がたっていましたが、その間ブライソンがついているとは言え一人で本当によくがんばったと、こちらも感動しました。座り込んでいるM氏にこの先へ進むかどうか聞いてみると「少し休憩すれば大丈夫だと思う」との回答なのでその旨をブライソンに伝えましたが、ブライソンは首を横に振って「彼は既にバランスを保つことができなくなっているし、ここからウフルまでは行き2時間、戻り1時間かかる。とても無理だ」と言いました。残念ですが彼の言う通りなのでしょう。M氏に「10分休んだら、ブライソンの指示に従って行動してください」とお願いして、残るメンバーでウフルへ向かいました。
道は最初のうち火口壁の内側をトラバースするようにつけられていますが、しかし数歩歩いたところで最後尾のB氏が嘔吐して座り込んでしまい、ギブアップの身振りを示しました。結局ここからウフルを目指したのは、A氏、H氏、若いK氏、トモコさん、Kさん、そして私の6人に、ガイドのジョワキムとデブリンです。
火口壁内側の日陰の道はところどころ雪の上を歩くようになっていますが、よく踏まれていて滑落の心配はあまりありません。とはいえ高度のせいで心も身体も正常な状態ではないので、細心の注意が必要です。日の当たる稜線上に出るとずいぶん気温も上がって楽になりましたが、ウフル・ピークは思いの外に遠く、なかなか近づいてくれません。道の左手に南極の氷山のように崖を見せている万年雪を眺めながら、自分の呼吸を数えつつ隊列を作ってゆっくり歩いていましたが、やがてトモコさんが遅れがちになってきました。彼女にはデブリンが付いてくれていますが、他のメンバーのペースに合わせることができず、とうとう座り込んでしまいました。こちらもトモコさんの前にしゃがんで目の高さを合わせ「この高度だと休んでいてもダメージが蓄積するから、休憩は短く」という趣旨のことを説明して先に立つと、やがてトモコさんは立ち上がってまた歩き出しました。あと3分の1というところで再び座り込んだトモコさんに自分のストックを1本貸してゆっくりでも歩き続けるよう伝えましたが、しばらくすると今度はKさんが道端で嘔吐してしまいました。ジョワキムが背中をさすってくれていますが、我々男性陣も自分が嘔吐感や頭痛と戦うのに精いっぱいでKさんを気遣うゆとりがありません。かろうじてA氏が自分のリュックサックから水を出してくれて、ジョワキムの手を介してKさんに渡しました。私も頭の痛さ・重さは昨夜の鎮痛剤のせいかさしたることはないものの、ピークをあと二つ越したらウフルだろうというあたりから後は胃がせりだしてくる感覚を押さえつけなければならない状態になっていました。
やがて前方に山頂標識とその周囲にたむろする登山者の姿が見られるようになって、道もほとんど起伏がなくなり、そのままなだらかなキリマンジャロ山頂稜線上の最高点のウフル・ピーク(5895m)に到着しました。
時計を見ると8時25分で、ギルマンズ・ポイントからここまで1時間45分かかったことになります。かなりの人数の登山者があたりで休んだり写真を撮ったりしていて、我々も一人ずつ山頂標識の前で記念撮影をしました。気持ちは悪くても気分は最高。前方にはメルー山がぼんやりと見えており、左手には下からも見えていた万年雪がずいぶん近くにありました。下界はうっすらと霞んで見えていますが、見た目の高度感はあまり感じられません。しかし間違いなくここは、私がこれまで到達した中で最も高いピークなのです。
近くに座っていたジョワキムと目が合うと、彼は親指を上に突き上げて祝福してくれました。A氏も若いK氏もかなり苦しそうな顔をしており、Kさんも一刻も早く下りたいという様子でしたが、向こうからトモコさんがデブリンとともに近づいてくるのが見えたので、彼女が山頂に到達するのを待つことにしました。
ようやくウフル・ピークに辿り着いたトモコさんと握手して、標識の前で証拠写真を撮り、いよいよ下山開始。下りは強いというトモコさんはすたすたと元来た道を戻り、A氏、H氏、若いK氏、Kさんも腰を上げて下り始めました。行く手には火口壁の向こうにギルマンズ・ポイントが見え、その向こうにマウェンジ峰が上部を覗かせています。
成層圏にそのまま続くような青空の下、安全地帯を目指して火口壁の上を戻ります。ここからは空気は濃くなる一方とはいえ、ギルマンズ・ポイントまではあまり高度が下がりません。やがて先行するトモコさんとも、後ろを行くA氏たちともはぐれて一人で火口壁の内側のトラバースを歩くようになりましたが、ふと気付くと心臓が早鐘のように打って胸苦しくなっていました。すぐに岩にもたれて深く速い呼吸を繰り返すと徐々に動悸は治まりましたが、この後こうした動悸を2、3回感じ、そのたびに立ち止まって呼吸を速めることを繰り返しました。
9時半、やっと誰もいないギルマンズ・ポイントに到着。トモコさんは先に下っており、一方残りのメンバーとガイドはまだここに到着していないようです。皆を待つ間に水を飲み、身に着けていたゴアテックスの上衣とズボンを脱いでデイパックにしまいました。ここからは砂礫の斜面をさっさと下るだけで、空気もどんどん濃くなって来ます。どうやら危険地帯は逃れられたようだと安堵感が胸に広がりました。
しかしキリマンジャロは、そんなに甘くはありませんでした。