メンヒ登頂
2012/07/10
予報どおり、今日のアイガーは機嫌が良さそう。
観光客に混じって7時17分発の登山鉄道に乗り込みます。
クライネ・シャイデックからの眺めも昨日とは雲泥の差。そして、ここから昨日も乗ったユングフラウ鉄道でユングフラウヨッホへ上がりますが、ユングフラウ・パスを持っていてもアイガー・グレッチャーからユングフラウヨッホまでは有料で、56スイスフランもします。その値段のあまりの高さにメゲながら着いたユングフラウヨッホ駅のホールで落ち合ったガイドはFritz Zumbach(以下「フリッツ」)、穏やかに髭を生やした初老の紳士です。お互いに自己紹介をしてから行程について相談しましたが、フリッツ曰く「午前はいいが、午後は雷雨(Thunderstorm)。明日も悪いようだね」。「え?じゃあ今日メンヒを登った後は下山ですね?」「いや、まだ今は決められない。メンヒを下りたところで決めることにしよう」
何はともあれ、メンヒに向かって歩いて行くことにしました。ユングフラウヨッホからメンヒスヨッホ・ヒュッテまでの間は圧雪されており、登山靴さえあれば誰でも普通に歩いて行くことが可能です。
あれがメンヒ。ま、見ればわかりますが……。
雪田=ユングフラウ・フィルンを淡々と歩きます。道はよく整備されていて、足はほとんど潜りません。そして向こうに見えている顕著なリッジが、メンヒの登路になる東南稜です。
快晴の下、東南稜を登るパーティーも何組か見えています。
ここでヘルメット、ハーネス、それにアイゼンを装着し、ロープを結び合いました。
東南稜の取付までは大した距離ではありませんが、それでもフリッツはロープを目いっぱい伸ばしたコンテで先行します。もちろんこれは、クレバスへの用心です。
出だしはスレート状の岩場。東南稜のメインラインに対して右側からアプローチし、末端を左へ回り込むようにして乗り上りました。
東南稜に乗ると、最初は幅広い雪稜です。
やがて、岩場と雪とが交互に現れるようになってきます。
ロボット雨量計。右奥に見えているのはユングフラウ、その手前にはスフィンクス展望台。
III級程度の岩場も出てきます。ここでガイドはクライアントの岩場での技量を測ることができる仕組みです。
やがて、登頂を終えて戻ってくるパーティーともすれ違うようになりました。早いパーティーは、前夜はヒュッテに泊まったのかもしれません。
スラブ状の岩場。ここでは、わずかながらすれ違い渋滞が生じていました。
スラブ状の上から振り返ると、これがなかなかいい眺め。
この岩場の上は山頂まで続く雪稜になっています。
急斜面をおっかなびっくりで下ってくるパーティー待ち。確かにここは、写真で見るよりずっと急傾斜でした。
雪稜(というより雪壁)を登って山頂と同じほどの高さになると、右に雪庇を発達させたナイフリッジの左斜面のトラバースになりました。フリッツは踏み跡よりも1段下の斜面(←かなり急)に新しいトレースを付けながら進みましたが、それは雪庇の踏み抜きへの用心です。
メンヒ山頂に到着。360度の絶景に皆うれしそうです。ここまでフリッツはすれ違い待ちを除けばノンストップで飛ばしましたが、どうやら一昨日の高度順応が奏功したようで、息が上がることなくそのスピードについていくことができました。もちろん技術的にも、まったく難しいところはありません。
中央奥にユングフラウ。フリッツは「今はいいが、悪天候は西から来るからね」と言っていましたが、その言葉のとおりユングフラウの向こう側には不穏な雲がたなびき始めています。
ラウターブルンネン方面。氷河が作るダイナミックな景観です。
こちらはクライネ・シャイデックを見下ろした眺め。青い池の少し先に駅舎が見えています。
アイガー。なるほど、左右が削ぎ落とされたような鋭い山容をしています。
アイガーの右手には、グリンデルワルトからも見ることができるヴェッターホルンとシュレックホルン。しかし岩壁の右に連なる奥深い岩稜は、下界からでは見られないものです。
登ってきた雪稜を振り返ると、アルプス最大の氷河であるアレッチ氷河の北部にあたるEwigschneefeld(「万年雪の野」)の広がりが見通せました。
ユングフラウをバックにポーズをとって記念撮影。ヤッケも着ていますが、ぽかぽかと暖かく穏やかな山頂でした。
下山。この急な雪壁は上から確保された状態で前向きに下りましたが、もしソロで来ていたら後ろ向きに下りたくなったかもしれません。
スラブ状の岩場には、このように確保用のポールが立っていて安全です。
手前にいる青いヤッケの若者はイギリス人の単独行だったのですが、頭痛がして動けなくなりここで休んでいると言っていました。これは言うまでもなく高度障害の症状です。
そして、下っていくうちにいつの間にか悪天候がユングフラウを越えてメンヒをつかまえ始めていました。まさに激変です。先ほどのイギリス人の若者やその先に登っていた登山者たちは大丈夫なのだろうか?
ユングフラウヨッホからメンヒスヨッホに通じる道に戻ったらロープを解き、ここでフリッツは携帯電話で下界と連絡をとって天候を確認しましたが、電話を終えたところで「明日はチャンスがないようだね」と宣告。「どうする?ヒュッテへ行くかね?」と聞かれましたが、明日がダメなら泊まっても仕方ないので下界に戻ることに決めました。
道々話したところでは、予報によれば明日午前までは天気が悪く、明後日は良い天気で、その次の日は再び天気が崩れるとのこと。この予報を信じるならばやはりアイガーは無理で、明後日にユングフラウを単発で狙うしかありません。その旨を告げるとフリッツは再び下界に電話をかけた上で、明日11時にガイドオフィスに赴くように、もし今日から明日にかけての降雪量が多くなければユングフラウに登るチャンスはあるだろう、と言ってくれました。「その場合は、また私がガイドすることになるね」「It's nice!」「It's nice for me. Because you are very fast.」日本の山では鈍足で相方に迷惑をかけることが多い私ですが、ここでは速いと評価された模様です。そうこうするうちにユングフラウヨッホ駅に着き、ここでフリッツといったん別れ、サンドイッチとコーヒーで一息入れてから下界に向かいました。
クライネ・シャイデックから見上げたメンヒとユングフラウ。登頂したときには青空の下だったのに……山の天気は本当にわかりません。
そしてホテルに戻って部屋からアイガーを眺めてみると、天気はどんどん良くなる様子。えっ、それならメンヒスヨッホヒュッテに泊まった方が良かったのか?……山の天気は、まったくわからないものです。
