エギュイユ・ド・ラ・グリエール「Mani pulite」

2014/07/28

この日は、エギュイユ・ルージュのグリエールの岩場でのマルチピッチ。出発もゆっくり8時頃ということになっていましたが、おっとり7時にホテル1階の食堂へ降りてみるとジャパニーズの団体とコリアンの団体とでそこは戦場のようになっていました。仕方なく7時半に出直したところ波が引くように東洋人の団体陣はいなくなっていましたが、その後にテーブルを占めたヨーロピアンはバスケットの中のフランスパンに朝食のハムとチーズをはさみこんでお昼のお弁当を作っている様子。なるほど、その手があったか……。

今朝もいい天気で、部屋の窓からは朝日に照らされるエギュイユ・ルージュの稜線がよく見えています。やがてホテルへ迎えに来てくれた長岡ガイドの車で、ランデックス行きのロープウェイが出るレ・プラの町まで移動しました。今日は長岡ガイドの他に、ガイド修行中のチャーミングな若い女性Mさんも一緒です(このMさんとは、後日思わぬところで再会することになりました)。

ロープウェイはレ・プラからフレジェールまで上がり、そこからチェアリフトに乗り換えることになります。シャモニーの谷をはさんで対岸にはシャモニー針峰群やモン・ブランがきれいに見えていますが、長岡ガイドが昨夕調べてきたところによれば、昨日コスミク小屋側からモン・ブランに達したパーティーは結局皆無だったとのこと。モン・ブラン・デュ・タキュルの斜面のクレバスを突破できても、その先のモン・モディ直下のトラバースが危険過ぎるという判断だったようです。

ところがリフトに乗って高度を上げるにつれ、こちらの雲行きがおかしくなってきました。最初のうちはぽかぽかの陽気に誘われたマーモットが岩の上でだらしなく手足を広げて日向ぼっこをしている姿を眺めることもできたのですが、だんだんガスが出てきて寒くなってきます。ランデックス駅に着いたときには岩場はすっかりガスの中でしたが、それでもここまで来た以上は行ってみるかと目の前の岩場を目指すことになりました。

駅から岩屑が積み重なった斜面を歩くことたったの5分、着いたところはグリエール下部バットレスのラインの中で左端にある「Mani pulite」というルートの取付でした。ここで私とMさんはクライミングシューズに履き替えましたが、長岡ガイドはアプローチシューズのまま。以下、ほぼすべてのピッチで長岡ガイドがリード、私がセカンド、Mさんがビレイとラストです。

1ピッチ目(4a)はどこでも登れる緩斜面。2ピッチ目(4c)は少し歯ごたえが出てきます。

3ピッチ目(5a)は出だしにカムを使うところがあり、さらにかぶった感じの岩も出てきますが、岩が堅く快適に登れます。

4ピッチ目(5b)はいったん緩傾斜になった後にすっきり立った岩壁で、ムーブの組み立てまでは必要ありませんが普通のアルパインなら十分核心部となりそうなところですし、部分的にカムも必要。しかし、ここも岩の堅さを信頼できるので気持ち良く登れました。

剱岳八ツ峰の剣稜会ルートを思わせるリッジ渡りを挟んで、ガイドブックにairy and might seem impressiveと書かれている6ピッチ目(5b+=アルパインならV+級くらい)が本当の核心部です。

頭上を見るとハングが頭を押さえていて、ルートを知らなければそこを直上するのかと思わされますが、実はハングの下を左に回り込むのが正解ルート。回り込むところのカンテに右手をかけて身体を左に振り込み、外傾した斜面にフリクションで立ち込みながらホールドを探すといい具合にアンダーホールドがあって身体を支えられます。これが見つかれば、後はさほど苦労することなく右上して上へ抜けることができました。

セカンドなのでさほど逡巡することなく登ることができましたが、このピッチをリードでオンサイトしろと言われていたら、本当に登れたかどうか自信がありません。しかも今ではボルトが整備されていますが、長岡ガイドが最初にここを登ったとき(いつ?)はボルトがなく、ナチュラル・プロテクションを駆使して登る指定だったそうです。

終了点から少し歩いたところが下部バットレスのてっぺんです。これまでガスに囲まれて展望がありませんでしたが、ちょうどこの頃にガスが少し切れてきて、核心部手前の易しいリッジを後続するクライマーの姿が見えました。

そしてこちらはすぐ隣のランデックスの岩塔です。これも立派で、クライマーなら誰でも登ってみたくなるはず。実際、この3日後に図らずもここに登ることになりました。

下部バットレスのてっぺんからはエギュイユ・ド・ラ・グリエールの頂上に続く稜線が見えていました。残念ながらここを登るルートはないそうですが、ここまででも十分満足です。

行動食をとりおえて、短いタイトロープ状態で歩いての下降の途中から振り返ったグリエール下部バットレス。登った岩壁は右のカンテの向こう側ですが、中央の切れ込みは易しいリッジ渡りの部分で、そこからこちらサイドの立った壁が最後の核心部になります。写真ではわかりませんが、目視では後続パーティーによってこの核心部に張られた緑のロープが見えていました。

部分的に厄介な地形とザレた斜面に緊張しつつ、無事に安全地帯への下降を終了しました。展望には恵まれませんでしたが、楽しいマルチピッチクライミングでした。

ランデックス駅から振り返ると、左にランデックス、右にグリエール下部バットレスがそれぞれに聳えています。この見えている範囲の中には何本ものマルチピッチのルートが抱えられています。

長岡ガイドが持って来ていたガイドブックで先ほど登ったルートを確認していると、核心部の手前に数パーティーが渋滞しているのが見えました。中には抜けきるのを諦めて懸垂下降してくるパーティーもあって、安易に取り付くことができるルートでもないのだなと再認識しました。

フレジェールの売店でコーヒーを飲み、ロープウェイに乗り換えてレ・プラへ下山。そのまま車でシャモニー駅前のホテルまで送ってもらって、この日の登攀を終えました。

午後、時間が余ったのでホテルから徒歩わずかのシャモニー・パレスの中にある山岳博物館Musée Alpinに足を運びました。ここにはモン・ブランの初登頂にまつわる絵などの展示や、古き良きシャモニーの風俗(民具など)、観光開発の歴史の展示もありましたが、いまひとつインパクトに欠ける感じ。それでも、グーテ小屋の上に今でもあるヴァロ小屋を紹介する部屋は興味深く見ることができました。19世紀末に建てられたこの小屋の主にはどうやら中国・日本美術収集の趣味があったらしく、その部屋を再現したコーナーには三番叟人形、日本兜、提灯、それにシーサーの置物がありました。

一方、博物館の2階ではなぜか現代中国絵画の特集がなされていましたが「山岳」博物館に似つかわしいとは必ずしもいえない絵が多く、少々拍子抜けしました。

この日、夕方から激しい雨になりました。それもあって明日は完全レストの日となります。

▲この日の行程。

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