チューリッヒからツェルマットへ

2004/08/01

朝食後に窓のシェードが引き上げられてみると、機の右側は夜明け、左側は満月が沈もうとしていて、これは柿本人麻呂の世界です。やがてスイス上空に到達し、雲の上にてっぺんをピンク色に染めた高峰が顔を覗かせているのが見えてきました。機は旋回を繰り返し、やがてチューリッヒ空港に滑り込みました。

入国審査(といってもパスポートを見せるだけ)、バゲージ回収、通関。スイスが初めてのユウコさんは、入国審査があまりに簡単なので「本当にあれでいいのか?」と驚いているようです。両替は2人あわせて6万円がCHF637.50になりました。CHF1が94円あまりという計算で去年よりさらに若干円安レートですが、面倒くさいのでCHF1=100円と覚えることにしました。さらにやらなければならないのがスイスカードのヴァリデーションです。

スイスカードは行程中の初日と最終日の移動が無料になり、さらにツェルマットなどでの登山鉄道が50%オフとなるありがたいパスですが、これを使うためには最初に使用する前に駅の窓口でヴァリデーションをしてもらう必要があります。そんなこんなで時間を使っているうちに予定の列車の発車時刻ぎりぎりになってしまいましたが、滑り込みセーフでブリーク行きの列車に飛び乗ることができました。

列車は、去年と同じ車窓の風景を見せてくれました。落書きだらけのチューリッヒの町、トゥーンからシュピーツにかけての美しい湖の風景、カンデルシュテークの駅間近に迫る雪の高峰。そしてトンネルをローヌ谷に抜けると間もなくブリークに到着し、ここでBVZ登山鉄道に乗り換えて懐かしい谷を上流へとさかのぼります。しばらく進むと雲一つない青空の下、谷のつきあたりに万年雪を戴いたブライトホルンが姿を現し、その肩にはクラインマッターホルンの三角形もはっきりとわかりました。これらは、去年初めてこの地に足を踏み入れたときにはそれと認識できなかったものです。

ツェルマット到着直前、登山電車の窓からいよいよマッターホルンが見えてきました。駅に降り立ち、あらかじめもらっていた地図を取り出してホテルへGO。今回の旅の宿ホテル・シェミネは、駅前からゴルナーグラートへと登るGGB登山鉄道沿いに道を進んで、マッターフィスパ川を渡らずに橋の手前を左へ折れてすぐのところにある中くらいの大きさのホテル。したがって駅からは徒歩5分くらいで、アルピンセンターまでも10分かからず、村の奥のゴンドラ駅まででも15分くらいと大変よい立地です。おまけに部屋は広くとても清潔で、窓からは正面にマッターホルンの姿を拝むことができました。

少し遅めの昼食は、去年も足を運んだヴァリザー・カンネでピザとラザニアをとりましたが、相変わらず凄い量に満腹になってしまいました。いったんホテルに戻って一休みしてから、あらかじめの約束通りアルピンセンターに出向きました。去年お世話になったマヤもいましたが、この日対応してくれたのはこれも感じのいいスイス美人のクリスティン。我々にはもちろん英語で対応してくれますが、他のお客にドイツ語であれこれ説明していたかと思うと、かかってきた電話の応対は流暢なフランス語。さすがスイスの観光施設だと改めて感心しながら、まずは明日のトレーニング山行であるブライトホルンのハーフトラバースの手続をして料金をVISAカードで支払いました。事前のメールでは「Price: CHF286.-- per person in a group of 2 or CHF541.-- with a private mountain guide (We try to build groups!)」とのことでしたが、ちゃんとグループ料金になっていました。ここでクリスティンにマッターホルンの様子や天気予報などを聞いてみると「ルートのコンディションはGood。天気は火曜日が崩れるが水曜日からたぶんGood」とのことでした。

アルピンセンターを出たらミグロでお買い物。ジュースやパン、チーズ、リンゴなどを買い、ホテルに戻ってシャワーを浴びて、後は夕方の逆光に霞むマッターホルンを部屋の中から眺めながらぼんやり過ごしました。ところが、どうやらこの日はスイスの建国記念日だったらしく、夜の10時になるとどかんどかんと花火が上がり始めました。

花火はツェルマットの谷の西側、ちょうどレストラン・エーデルワイスの上あたりに上がります。なかなか凝った花火の趣向に、スイスの花火師もやるもんだなぁとしばらく眺めていましたが、それもやがて収まって再び静寂の夜に戻っていきました。