ユングフラウ登頂
2012/07/12
午前2時40分、真っ暗な部屋へフリッツが私を起こしに来ました。「Let's go. It's windy but clear.」決行です。
食堂へ下りて、パン、チーズ、リンゴ入りシリアル、コーヒーの朝食。記録のためにと写真を撮っていたら、フリッツが「彼を撮れ。このヒュッテの the most important person だ」とカメラを向けさせたのはヒュッテのマスターで、一見いかつい顔の彼もにっこり笑ってポーズをとってくれました。
出発は3時40分。もちろん外はまだ暗く、風も強いのですが、頭上には星がまたたいています。
昨日歩いてきたユングフラウ・フィルンの道を戻って、ユングフラウヨッホから左へ曲がり、圧雪された道を外れるところでアンザイレン。ここではフリッツはロープをあまり長く伸ばさず、その代わり途中にコブをいくつも作っていました。これは、万一ヒドゥンクレバスに落ちたときに割れ目の角でコブが引っ掛かるようにする工夫のようです。
そうこうしているうちにだんだん夜明けの気配が近づき、メンヒのシルエットが黒々とした姿を現しました。
ユングフラウにはユングフラウ・フィルンに突き出した尾根の末端から取り付き、雨量計を越えた先でこのような角度のある(しかし易しい)岩壁を1カ所越えることになります。取付のトラバースとこの岩壁はスタカット、後は短いタイトロープで登りました。
この岩壁を越えたら尾根の左側に回り込んでバンドを進み、さらに岩場の登高が続きます。
午前5時。だんだん明るくなってきました。
ユングフラウの山頂(双耳の右側)が見えてきたところで休憩をとってアイゼンを装着しましたが、フリッツはお腹をこわしたらしく「Urgent!!」と叫びながら岩陰に走っていってしまいました。
フリッツが帰還するまでの間にゆっくり写真撮影をすることができました。このアレッチ氷河の途中にも山小屋があり、そこまで歩いていくコースがあるようです。
戦線復帰(?)したフリッツと共に登高再開。メンヒの向こうに雲海が広がり、その先がオレンジ色に明るくなってきています。
前方の岩壁も朝日に照らされて赤く染まってきました。目指しているのは、二つのピークの間の鞍部=ロートタール・ザッテルです。
登ってきた雪尾根を振り返ると、後続パーティーが見えました。遠くの左端はアイガー、その手前はメンヒです。
ロートタールザッテルが近づいてきました。鞍部の右上のピークが山頂です。
この辺りは顕著なクレバスがあり、ロープを長く伸ばし間隔を空けて登ります。
ザッテル下の雪壁の手前でまたしてもトイレ休憩のフリッツ。昨夜は同じものを食べたはずなのに……。しゃがんでいる彼の向こうに見えているのは双耳の一つ、ロートタールホルン(3972m)。時刻は6時半くらいです。
この急雪壁もスタカットで登りました。斜度は60度くらい。
雪壁のてっぺんを越えると、いきなり東側の暗い谷間の様子が目に入って高度感が増し、風も突然強くなって驚かされます。
後続パーティーは、昨日ヒュッテで同じテーブルだったフランス人カップルとそのガイドでした。
ザッテルから山頂に向かって、風のせいで堅く締まった雪尾根を登ります。
途中から左へトラバース。アイゼンがよく利いて不安はあまりありませんが、落ちれば致命的なのでソロでは少々緊張するかもしれません。
トラバースした先からは、岩と雪とのコンタクトラインを登ります。ロープ長ごとにこうした確保支点があり、スタカットで2ピッチ登りました。
その先は傾斜のきつい雪田状になって、再びタイトロープでの登りになりました。下から見上げたときは山頂はすぐそこだと思えたのですが、いざ歩いてみるとなかなかピークに辿り着かず、雪田の上をジグザグを切りながらの登りが延々と続いて気持ちがめげそうになりました。
ザッテルから1時間弱の登りで、やっと待望のユングフラウ山頂に到着です。この日の一番乗りでした。
7時50分、ヒュッテを出てから休憩コミで4時間10分での登頂でした。もっともフリッツの長いトイレ休憩が2回ありましたから、実質4時間弱といったところでしょう。それにしても素晴らしい天気、素晴らしい景観です。フリッツも「こんな天気になるとは予想していなかったよ」と私の強運に驚いた様子でした。でも、喜び勇んで撮ったパノラマ動画はなぜかボケボケになってしまいました。
すぐ向こうにメンヒ、その左向こうには鋭いアイガーが見えています。
アレッチ氷河の眺め。
南西方向の山々。部分部分を拡大してみると……。
白い巨体はモン・ブラン。
チラ見しているのはマッターホルン。北壁側が見えています。
スイス最高峰のモンテ・ローザも見えていました。
それほど長い時間ではありませんでしたが、最高の展望を満喫して下降開始。堅い雪面を登ってきた踏み跡に沿って慎重に下ります。
フレンチペアとすれ違い際に「Great view is waiting for you!!」と声を掛けると、2人は大笑い。
すれ違うパーティーが増え、確保用の鉄柱をお互いに譲り合って使うことになります。
ザッテル下の雪尾根に下りればほっと一息。ここから往路をそのまま引き返すのだと思っていたら、フリッツはショートカットしようと言って尾根の途中から左へ折れました。
尾根の1段下の斜面を、山頂方向(右上)へ回り込むフリッツ。
この急斜面は、私が前を歩きフリッツが後ろから確保します。ところどころ雪が氷化しているところは後ろ向きになりましたが、おおむね前向きまたは横向きで下ることができました。
急斜面を下りきってもフリッツは私に先を急がせ、斜面からかなり離れてから、もういいだろうという感じで足を止めました。彼の言によれば、後ろの斜面のセラックが崩れても影響が及ばない距離を測っていたそうです。
奥さんと電話で話をしているフリッツ。しかし、ここからユングフラウヨッホ駅までもクレバス対策のためにロープは外しません。
ユングフラウヨッホまでのウイニング・ウォーク。最後まで気象条件に恵まれた、最高の登山になりました。
振り返り見るユングフラウ。登ったルートと下ったルートとが一望できます。そして10時50分、ユングフラウヨッホ駅に着いたところでロープを外し観光客でごった返す構内に入って、私はビール、フリッツはコーラで乾杯しました。
下りの登山鉄道から仰ぎ見るユングフラウ。もう雲が山頂を覆い始めています。フリッツは、来年アイガーに登りたいならより天候が安定している8月の中旬に来るようにと教えてくれました。了解!そのときはあらかじめgrindelwaldSPORTSに依頼して、再びフリッツにガイドしてもらうつもりです。
ホテルの自室での晩餐には奮発(?)してワインを2本つけ、白い雲をまとったアイガーを窓から見上げながら一人祝杯を上げました。
