メバウィ・アイスパーク

2023/02/08

7時からロビーで朝食をとり、自室に戻って身繕いをして再びロビーに降りると、そこに今回のガイドであるJeonさんが待っていました。すぐに彼の車に荷物を積み込み、ソウルから東を目指してひた走ります。

途中でコーヒーブレイクを入れての2時間半のドライブで到着したのは、雪岳山の北を東西に走る56号線からほど近いメバウィ・アイスパーク매바위 아이스 파크です。地図にはYondaeri Maebawi Artificial Waterfallと表記されているここは、例によって近くを流れる川からポンプアップした水を岩山の上から流して作り上げた人工の氷瀑で、高さは高いところで70mほどとのこと。まずはここでウォーミングアップを行い、翌日のトワンに備えるという算段です。

この日は100mロープを使い、まず最初にあえて短く2ピッチに切ってリードアンドフォローで上まで登り、懸垂下降で下に降りてからトップロープ(つまり50m)を1本。昼食休憩をはさんでトップロープをさらに2本。最初に氷壁の途中でピッチを切るマルチピッチの手順を確認し、以後は斜度のきついところを選んで登りながら距離感に慣れると共にギアの調節を行います。翌日のトワンはとにかく長さがあるのでフォローながらもアックステンションを駆使して前腕の消耗を防ぐことにしていましたが、このトップロープ3回の中でレスティングフィフィの長さを微調整できたことが本番に生かされることになりました。

ところで我々がここに着いたときには大部隊が登攀の準備中でしたが、彼らは国立公園のレンジャーたちだったようです。さまざまなシチュエーションを設定しながらレスキューの訓練に取り組む彼らのうちの何人かはJeonさんと顔見知りで、それもそのはず、かつてまだレスキュー技術がレンジャーに行き届いていない時期にはJeonさんが依頼を受けて救助活動に参加したり、あるいは救助訓練を指導したりしていたのだそう。今ではすっかり自立して氷の山でも救助活動を行えるまでに成長したとJeonさんは話していましたが、背後から見学していると中にはアックスの使い方に習熟していないメンバーも見受けられ、全員が一騎当千というわけにはなかなかいかないものだなと思わせられました。

ところで、この緑と赤の派手は袋は何か。もちろん現在の用途はロープバッグなのですが、もともとはキムチ作りのための道具なのだそう。こんなのでキムチを作るんですか?と聞き返したくなりました。また、キムチは韓国文化のひとつの象徴ですが、居合わせた者に「振る舞う」というのも韓国の人々の習慣のようなものです。この日もJeonさんがロープ回収のために氷瀑上に上がっている間に、レンジャーの一人が私に温かいモツ煮のようなものを勧めてくれました。감사합니다!

撤収してさらに東に向かうと、右手に聳える顕著な岩峰に目が止まります。これは雪岳山の中でとりわけ名所となっている蔚山岩울산바위ウルサンバウィで、「天神が天下一の景勝を造ろうと山々の峰を金剛山に集めたが、うっかり遅刻してしまった蔚山岩は恥ずかしさから故郷の蔚山に戻れず雪岳山で休んでいるうちにそこに留まることになった」といった言い伝えがあるのだそう。また、普通に登山道を辿って日帰りでその山頂に立つこともできますが、ギザギザの頂稜を縦走すれば2泊3日行程となり、さらにこちらから見て反対側にはクラック主体のクライミングルートが多数引かれているそうです。

さらに雪岳山国立公園の入口近くに立ち寄って、明日登るトワンを遠望しました。夕方の斜光の中に上段の滝を見せているトワンは「どうしてあんなところにあの大きさの滝が?」と思わずにはいられなくなる天空の瀑布で、こうして眺めていると、本当に登れるのだろうかという畏怖の気持ちとなんとしても登りたいという意欲とが共に湧いてきます。

この日の宿りは海に面した束草市のホテルで、二つの部屋が続きになっており、ベッドがある方を私、ソファの部屋をJeonさんが使うことになりましたが、床の上にギアの類を盛大に広げて乾かしても十分お釣りがくるほどに広い部屋であるにもかかわらず1泊5,000ウォンでした。

夕食はJeonさんが奥さんに電話で教えてもらったサムギョプサルの店へ繰り出しました。店構えは若干の場末感が漂っていますが、お肉の味はなかなか。ただし炭火の力が強いので、注意していないとすぐに炭化してしまう危険性があります。ともあれ翌日の登攀に向けて栄養をつけた後、コンビニによって翌日の朝食(私は菓子パン)を調達した我々は、ホテルの部屋に戻って19時頃には早くも就寝しました。