ラバン・ラタ

1998/12/28

いよいよ登山開始の日。朝、部屋の窓から見上げると、青空を背景にキナバル山の姿がくっきりと見えています。標高差はかなりあるものの水平距離はあまりなく、サウス・ピーク(Kinabalu South)やドンキーイヤーズ(Donkey Ears)の形がはっきり見えてうれしくなってしまい、ユウコさんも「♫王様の耳は〜ロバの耳〜」などとのんきに歌っています。

朝食はアメリカン・ブレクファースト、そして8時すぎにいったんReception Officeで余分の荷をデポ。私はアタック用の最小限の荷物をデイパックに移し、残りはミレーの中型リュックサックに入れて預けることにしました。ここからガイドとポーターが同行し、車で15分のPower Station(発電所)へ移動です。

Timpohon Gateをくぐっていよいよ登山開始ですが、早くもガスがかかり始めていました。無口なガイドのダピ氏はチャールズ・ブロンソンと北京原人を足して2で割ったような顔をして、黙々と荷を運んでくれます。コースは出だしでいったん下った後に樹林の中をコンスタントに高度を上げていきましたが、ところどころに東屋(シェルター=マレー語でpondok)があり、よい休憩所になっています。シェルターには必ず水とトイレが設置されており、水の方は「お腹をこわすので飲むことをお勧めしません」とあらかじめシンディから言われていましたが、トイレは水洗式で非常にきれい。そして全てのシェルターには、以下の言葉が書かれた看板が下げられていました。

Tolong jaga kebersihan dan keindahan Taman anda, tolong bewa turun sampah sarap anda. Jangan menulis, melukis atau mengkir pada sebarang banda. Terima kasih.

Please keep your park clean and beautiful, bring your litters away. Do not write, paint or carve on any object. Thank you.

生物学の四先生は、道すがら次々に植物の名をあげてはカメラを向けています。その観察眼に驚くうちにも蘭をはじめ各種の花々とともに、キウイフルーツのように丸々とした飛ばない鳥も見つかりました。

そんなこんなでゆっくり登っているうちに、下から四つ目のシェルターであるPondok Mempeningあたりから雨脚が強くなり、早めの昼食をとることになりました。P.H.Q.で作ってもらった弁当は、卵とチーズのサンドイッチ、バーベキューチキン、ゆで卵に青い柑橘類でした。

Layang-Layang Staff Qtrs.の上で木々に白い花がきれいに咲いているポイントで、四先生に通りがかりの英語と日本語がとてもうまいドイツ人男性と20歳前後の美人のオーストラリア人女性を交えて記念写真を撮ることになりました。後で送るから、ということでそれぞれ住所をメモに書いていましたが、先生のカメラがデジカメだったのでE-mailアドレスを書いたところ、ドイツ人もオーストラリア人もE-mailアドレスを書き足し、ひょんなところでネットの普及を実感することになりました。

さらに登って道を左に少し外れたところに唇の真っ赤な巨大ウツボカズラが生えていましたが、初めて見る野生のウツボカズラの毒々しさは何とも異様です。そこから少しのPondok Villosaは森林限界に近く、同時に雲の上にも出て、山の上部台地が一望できる素晴らしいビューポイントになっていました。灰色の空をバックに、はるか頭上に聳え立つ奇怪な形の岩塔群は、人間の本能の中に太古の昔から刷り込まれた、高いところを目指そうとする心を激しく揺さぶってくるようでした。

雨の中の急登を続け、やっとラバン・ラタ小屋(Laban Rata Resthouse)に到着しました。この山小屋は1階がレストラン、2階が宿泊部屋で、ほとんどホテルと言ってもいいくらいの規模をもっています。もともとの予定ではここからさらに10分ほど登ったグンティン・ラガダン小屋に泊まることになっていましたが、ガイドのダピが小屋に確認したところ四先生と共にこのラバン・ラタに泊まれることになり、我々はこの幸運に大喜びしました。

この日ラバン・ラタに泊まった日本人は、我々と四先生のほか、堺から来たという年配の御夫婦を加えた8人だけ。見回したところ、前述のドイツ人やオーストラリア人をはじめ白人の姿が最も多いようです。窓の外にはこの高さ(日本ではここより高い場所は富士山だけ)では考えられないほど水量の豊富な沢が流れ、ガスが流れてどんどん寒さがつのってきていましたが、小屋の中は暖かく、特に宿泊部屋は電気ヒーターのおかげで暑いくらい。夕食はこれまた生姜が多用された中華風のセットで、デザートのスイカも下界以上に甘いものでした。

▼この日の行程
08:45 Timpohon Gate 1829m
09:15 Pondok Kandis 1981m
09:45 Pondok Ubah 2059m
10:35 Pondok Lowii 2286m
11:45-12:30 Pondok Mempening 2518m
12:55-13:30 Layang-Layang Staff Qtrs. 2621m
14:45 Pondok Villosa 2942m
15:25 Pondok Paka 3052m
16:20 Laban Rata Resthouse 3273m