マッケンジー湖ロッジ〜ルートバーン滝ロッジ

2019/12/31

明けて2日目の今日は、ルート中のハイライトとなる日。天気予報でも3日間のうちで最も好天に恵まれた日です。

外に出てみると、ひんやりと冷たい空気の向こうに白いダーラン山脈の山並みが見えていました。

朝一番の仕事はこの日のランチ作り。食堂の入り口に各種食材が置かれていて、それをもとに各自好みのサンドイッチを製作して紙袋に詰め込みます。バナナやオレンジをつけてももちろんOK。

ランチの準備ができたら朝食です。オートミールや各種シリアル、パン、フルーツにヨーグルト。希望者にはベーコンを添えたエッグベネディクト。

9時にロッジを出て、徒歩5分のマッケンジー湖の畔に出ました。この湖は、右奥から下ってきた谷の出口が氷河のモレーンで塞がれてできたもの。ここで記念撮影をしてから三々五々出発します。ルートは湖の対岸に見えている斜面を最初は左下から右上へ上がり、途中から左上へ切り返して尾根上に出るラインです。

出だしは鬱蒼とした森の中のなかなかの急登で息が上がりますが、過ごしやすい気温のおかげで汗をかくことはなく、ぐいぐいと30分ほど登ると樹林帯を抜け出して展望が開けました。

植生が変わって開けた斜面には各種の花が咲いています。一番大きく目立つのはラージ・マウンテン・デイジーで、他のさまざまな花も基本は白い花弁に黄色い雄蕊という組合せですが、これは受粉を媒介するハエや蛾の色覚に合わせたもののようです。

足下の花にみとれているうちにいつの間にか高度が上がり、マッケンジー湖が眼下に遠くなってきました。振り返ってみると谷の出口方向、ホリフォード渓谷を雲が埋め尽くそうとしている様子もよくわかります。

小さいスイッチバックも交えながら道は谷の奥の方向へ向かいつつ高度を上げていましたが、やがて向きを変えて谷の出口へとトラバースするようになります。

やがて到着したのは、尾根上の展望台であるオーシャン・ピーク・コーナーOcean Peak Cornerです。

青い空の下、ダーラン山脈を正面に望み、こちらとあちらの間にはホリフォード渓谷を埋め尽くす雲海と素晴らしい光景です。もっとも、ここがオーシャン・ピーク・コーナーと呼ばれるのはホリフォード渓谷の右奥にタスマン海(オーストラリアとNZに挟まれた海域)を遠く眺めることができるからですが、あいにくこの日はこの雲海のせいで海を見ることはできませんでした。

オーシャン・ピーク・コーナーからは、雄大な斜面を真横にトラバースする快適な道が続きます。地形の弱点を突くという発想がまったく感じられないこのどこまでも平坦な道は、交易などの用途をもたず純粋に歩くことだけを目的に拓かれたものであることを物語っています。

斜面を駆け下る清流が道のところどころを横切り、よいアクセントになっています。確かにこの水なら安心して飲めそう。

やがて前方に姿を現した重量感のあるピークが、オプショナル・ウォークの対象となるコニカル・ヒルConical Hillです。道はその手前にある鞍部=ハリス・サドルHarris Saddleを右に乗り越していくのですが、ハリス・サドルに荷物をデポしてコニカル・ヒルに登れば往復1時間から1.5時間の追加になります。

ハリス・サドルへ向かう前の小さな谷筋では、小川の流れから水を補給することができます。ガイドからも昨夜のブリーフィングで、ハリス・サドルを越える前にここで水を汲んでおくようにとの指示が出されていました。

この階段がハリス・サドルが近いことの印。これを登って少し歩くと池塘が散在する平坦な地形の上に出ましたが、こちらの水は流水ではないので飲用不適です。

オーシャン・ピーク・コーナーから2時間弱の歩きで、標高1277mのハリス・サドルに建つハリス・サドル・シェルターに到着しました。ここで朝つくったランチを取り出し腹ごしらえ。飲み物はシェルターの中でガイドが用意してくれていました。

ツアー参加者の多くはハリス・サドルからそのままルートバーン滝ロッジを目指しましたが、自分にとってはここであのてっぺんに立たないという選択肢はあり得ません。サブザックに飲み物とジャケットだけを詰めてシェルターにメインザックを置き、相方には他のツアー参加者と一緒に先に行ってもらうことにして、一人コニカル・ヒルを目指しました。ルートは、中央のガレていない斜面につけられたジグザグ道を登って左上のスカイランに達し、その向こう側にある凹角を登っていくことになります。

前夜のマッケンジー湖ロッジでのブリーフィングでガイドがこの道の難しさを強調していたことも参加者の多くがコニカル・ヒルを敬遠した理由だと思いますが、実際に登ってみるとそれほど難しくはありません。目安としては日本の北アルプスや八ヶ岳の登山道を短くしたような感じ。確かに部分的にはスラビーな岩の上を歩く場面もあり、シューズのソールのフリクションを信用できないと怖い思いをするかもしれませんが、山歩きに慣れている者にとっては特に問題になるような箇所はありません。

登り着いた山頂(標高1515m)からの眺めは実に広闊で、この旅でのハイライトとなるようなものでした。山頂自体が小広い平らなピークになっていて、その中のあちらこちらを歩き回りながらそれぞれに得られる展望を楽しむことができ、つい時間のたつのを忘れてしまいそうになります。

南の方を見やるとキー・サミットやアーランド滝が見え、他にも地名を知ってさえいれば次々に指差して名前を挙げられそうな展望の良さに大喜びしながらコニカル・ヒルの上に20分ほどもいて、まだまだ滞在していても飽きることはなさそうでしたが、そうもいかないので後ろ髪を引かれながら下山にかかりました。

下山の道からはハリス湖Lake Harrisの全貌を眺めることができました。道はこの湖の右を回り込み、その向こうにある平原の中を緩やかに下っていくことになります。

上から見たハリス・サドル。このシェルターに泊まって朝夕の景色を眺めたり周囲の山々に足を伸ばしたりするのも楽しそうですが、残念ながらシェルターは緊急時を除き宿泊禁止です。

リュックサックを回収してトランピング再開。コニカル・ヒルの上から見えていたハリス湖をぐるっと回り込む道もとてもステキで、上の写真の左奥の谷の向こうのさらに高い位置にある氷河湖から滝となって落ちる水が集まってハリス湖になり、さらに写真右端の落ち口から滝となって1段下のすり鉢状の平原へと流れ下る様子が一望できました。この川が、すなわち「ルートバーン」です。そして中央奥の谷底にはルートバーン・フラットRouteburn Flatsと呼ばれる緑の湿原が広がっているのも遠望することができました。

道はハリス湖の水の落ち口から少し離れたところを階段になって下っていますが、水流の方も階段状の滝になって平原へと落ちていきます。

ルートバーンはこのすり鉢状平原の中を左から右(西から東)へと蛇行しながら進み、再び滝を作ってルートバーン・フラットへと流れ落ちます。こちらの滝がルートバーン滝Routeburn Fallsです。

ルートバーン滝の脇の道を下ると、斜面の途中の森林限界線上に今宵の宿となるルートバーン滝ロッジの屋根が見えてきました。その向こうの緑の平原はルートバーン・フラット。これまた得も言われぬほどに美しい光景です。

振り返れば、どうどうと水を落とすルートバーン滝。懲りずに登攀ラインを探してみましたが、これならなんとかなりそうな……いや無理か?

▼この日の行程
09:10 マッケンジー湖ロッジ
10:50-11:10 オーシャン・ピーク・コーナー
12:55-13:20 ハリス・サドル
13:50-14:10 コニカル・ヒル
14:40-45 ハリス・サドル
16:15 ルートバーン滝ロッジ

歩行距離は約11kmと昨日とほぼ同じでしたが、今日は出発が早いため夕食までかなり間がある時刻にロッジに着いたので、シャワーを浴びてさっぱりした後は相方や他のツアー参加者の皆さんと乾杯!ピノ・グリのとてもおいしいワインをいただき、幸せな気持ちに浸りながら今日一日の素晴らしかった展望の思い出を語り合いました。