塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

ディバイド〜マッケンジー湖ロッジ

2019/12/30

今日からトランピングの始まり。朝5時に起床して、昨日Fergbakerで買ったサンドイッチを食しました。ちなみにコーヒーはホテルの部屋に備付けのもの。またNZではコーヒーや紅茶にはミルクを入れるのが基本らしく、冷蔵庫の中には追加料金無用で使えるミルクが入れられていました。

いったんチェックアウトし、トランピングに必要ない荷物をホテルに預けてからまだ薄暗いクイーンズタウンの町を歩いて、昨日ブリーフィングを受けたUltimate Hikesの事務所に向かいます。

事務所では各自ファーストネームが書かれた名札を受け取って身に着け、事務所の前に停められた大型バスの中へ。同行してくれるガイドは女性4人(Remi / Maddy / Dewi / Georgia)で、このうちRemiはドイツ生まれ(?)の日本人とのこと。自分では「日本語がおかしい」と謙遜していましたが、きちんとした日本語を話していました。その彼女がバスに乗ったゲストの様子を見て「さすが日本人、時間通りに集合してくれていますね」と笑っていましたが、確かに指定された集合時刻(6:30)におかまいなしで出発時刻(6:45)前後にマイペースでやってくるゲストも少なくありませんでした。

バスはまずワカティプ湖の東岸を南に進み、その右手の車窓からは湖、左手の車窓からはリマーカブル山脈の姿が見えています。リマーカブル山脈は今でも年に38mmずつ成長し続けている生きた山脈で、映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのロケ地に採用され、Tayler SwiftのMTVの撮影も行われ、夏は登山、冬はスキーで親しまれるところだそう。「……だそう」というのは説明役も兼ねているバスの運転手さんの言を採用しているからで、彼の解説はさらにクイーンズタウンの歴史やワカティプ湖にまつわる伝説〔後述〕にまで及びました。それにしても車窓の眺めは素晴らしく、同じ島国でありながら日本では見られない雄大な景色が広がります。その平らなところはどこまでいっても牧草地、そしてたくさんの羊とときどき牛。

クイーンズタウンから2時間ほどバスを走らせたところで、テ・アナウTe Anauの町で軽い朝食休憩。スコーンやチョコケーキとコーヒーを口に入れてしばし寛いでから、バスに乗る前に円陣を作って簡単な自己紹介タイムとなりました。自分の名前・どこから来たか・自分の好きな場所を話すようにと言われて順繰りに15秒間スピーチをしていったのですが、先に書いたように3分の1は日本人、残りは近隣のNZやオーストラリア、アジア、ヨーロッパとさまざまでした。

再びバスに乗って北上を続け、テ・アナウ湖から離れて谷の中に入っていくとやがて国立公園の標識。そしてテ・アナウから約1時間で、何台もの車が駐まれる駐車場と吹き抜けの小屋、簡易トイレがあるディバイドThe Divideに到着しました。ここがトランピングの起点です。

看板に書かれているのは、ルート状況によって困難があり得ること、気象条件の変化に備えるべきこと、ルート上の各ポイント間の距離・所要時間と山小屋の装備など。Your safety is your responsibilityと念押しした上でEnjoy the Routeburn Trackと後押しをしてくれています。大型の害獣がおらず、基本的に迷いようがない一本道であることもあって、ここからゲストは一列になって歩くのではなく各自自分のペースで自由に歩くのですが、ガイドの4人は無線機を持ってルート上に適宜分散し、要所での人数チェックを行ったり最後尾についてスイーパーになったりします。

出だしからしばらくは、鬱蒼とした森林の中の緩やかな登り道が続きます。道の脇にはシダが深く生い茂り、地面には苔類、樹上には地衣類。サルオガセに似たゴブリンモスが垂れる森のしっとりした様子は日本の山に似ていなくもありません。

1時間もかからないうちにキー・サミットKey Summitへの分岐点に到着し、ここで分岐標識の近くに荷物をデポしたら10リットルのサブザック一つを背負ってキー・サミットを目指しました。こちらもさほどきつくない勾配のジグザグの登り道ですが、すぐに周囲が開けて展望が良くなってきました。あいにく雲が多めで見通しは良くありませんが、それでも青空の下に高山の雰囲気が広がって気分が高揚してきます。

分岐から20分ほどで標高919mのキー・サミットに到着しましたが、道はそこから先にKey Summit Alpine Nature Walkとして続いています。

高層湿原と池塘が目立つこの山頂部にはところにより木道が設けられ、自然へのインパクトを最小限にとどめようとする工夫が見られます。

池塘に映る周囲の山並みを眺めながら歩きやすい道を歩くこと15分、折返し点らしい広場に到着しました。

東の方には谷をはさんでエイルザ山地Ailsa Mountainsの山々。

反対側には雲に隠れたクリスティーナ山Mt. Christinaの右の谷の中にちらりとマリアン湖Lake Marianが見えています。見通しがいまいちだったのは残念ですが、それでも造山運動と氷河が作り出したダイナミックな山岳景観を堪能できてラッキーでした。

周回コースをぐるっと回って周囲の展望を堪能してから、元来た道を分岐点へと下ります。

荷物を回収して山道を15分ほど下った谷の底にあるのが、こじんまりとしたハウデン湖ハットLake Howden Hutです。時刻は既に13時45分なので、ここで遅めのランチ休憩としました。

ディバイドでガイドからもらっていた昼食はFergbakerのサンドイッチ(またしても!)など。さすがに全部は食べきれず、ぱんぱんになったお腹をさすって一休みしたら、ハウデン湖をちらりと眺めて先を急ぎます。

低地の植生を保護する木道を渡ってやがて登山道に戻ると、この旅で初めてロビンの出迎えを受けました。人懐こいこの鳥には旅の3日目でも何度もお目にかかることになるのですが、カメラを構えるとこうしてポーズをとってくれるのが可愛いところです。

銀ブナの森の中には和風な美しい苔やシダが生い茂り、そのところどころで右手の斜面を流れ下る清流の上を渡りますが、この辺りはコース中で最も降水量が多い場所で、ガイドのRemiによればこの水は飲用に適するのだそう。やがて道は山腹をからみながら徐々に高度を上げていき、そしてハウデン湖ハットから1時間余りも歩いた頃、木の間越しに大きな滝が見えてきました。

期待に胸を高鳴らせながら標識を横目に滝の前へと脇道に入ると……。

これが落差174mのアーランド滝Earland Falls。間近で見上げるとすごい迫力で、ここまでの淡々とした登り道の疲れがいっぺんに吹き飛んでしまいます。それにしてもこの滝の水はどこから来るのかと地図を広げたところ、この上にロバーツ湖Lake Robertsという湖が存在していました。この辺りの地形は氷食によって非常に複雑で、そのあちこちに氷河が作った湖が点在して豊かな景観を作り出しているようです。

こちらは相方のiPhone11の広角カメラで撮った画像。魚眼レンズで撮るのも面白いかもしれません。山屋の習性でつい登攀ラインを探してしまいましたが、落ち口のハングぶりを見たところで諦めました。

アーランド滝を充分に堪能した後はほぼ水平の山道を歩きますが、しばらくの間は振り返るたびにアーランド滝の姿を認めることができました。ところで登山道の脇の至る所に直方体の木の箱があって不思議に思ったのですが、後でガイドが教えてくれたところでは、この辺りに住む希少な鳥類を保護するために天敵となるイタチやネコ、オポッサムを捕らえるための罠なのだそうです。

やがてその一角が開けた場所=オーチャードOrchardに着いたところで一休み。NZ固有の植物の疎林が果樹園のように見えるのでこの名がついたそうですが、ここで私は悪名高いサンドフライ(ブヨの仲間?)に手を噛まれてしまいました。噛まれた跡は大して目立たないのですが、とにかく痒い!イタチやネコやオポッサムを捕らえるのもいいのですが、サンドフライの方をなんとかしてほしい……。

道はところどころでホリフォード川Hollyford Riverの向こうのダーラン山脈Darran Mountainsの眺めを提供しながら北へと続き、やがて徐々に高度を下げて、右手の山の中に切れ込んだ谷の中のマッケンジー湖の近くに建つマッケンジー湖ロッジLake Mackenzie Lodgeにつながっていました。

ディバイドから約12km、6時間25分(休憩コミ)をかけて到着したこのロッジがこの日の宿で、この後にシャワーを浴び、夕食をとり……と寛ぎの時間を過ごしたのですが、その様子は最後にまとめて紹介することにします。

▼この日の行程
11:20 ディバイド
12:20 キー・サミット分岐
12:40 キー・サミット
13:30 キー・サミット分岐
13:45-14:15 ハウデン湖ハット
15:40-50 アーランド滝
16:40-50 オーチャード
17:45 マッケンジー湖ロッジ

行きのバスの中で運転手さんが語ってくれたワカティプ湖にまつわる話は、おおよそ次のようなものでした。

  • ワカティプ湖はNZで三番目に大きく、その長さ80kmはNZ最長、その最も深いところは水深410m。およそ15000年前に氷河によって削られてできたもの。
  • マオリによると、この湖は巨人によってできたと言われる。昔々、マオリのある部族がこの地に移住してきて幸せに暮らしたが、近くの山の奥に住んでいた巨人がこれを妬み、村を襲って長老の美しい娘を奪って行った。
  • 長老が巨人を倒した者に娘をやると約束をしたところ、部族中の若者たちが巨人に挑んだが誰も倒せない。しかしある若者が、この巨人をよく観察して夜は木のベッドに寝ていることを見つけ、夜中に巨人のベッドに火をかけたところ、巨人はたちまち焼け死んでしまった。
  • 巨人が燃え尽きたときその跡には大きな穴があき、そこに水がたまって湖となったのがワカティプ湖である。だからこの湖を山の上から見ると、巨人が横に倒れている姿に見える。
  • ワカティプ湖はときどき波立っているが、それは巨人の心臓が今でも動いているからだとマオリは信じている。