塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

ロブチェBC滞在 (1)

2018/04/19

朝、ハイドレーションのチューブ内が凍っていることに驚きながらテントを這い出ると、目の前に昨日は見えていなかった高い山がありました。これがロブチェ・イーストです。

あの頂までこのBCからワンプッシュで登ることはできず、見えている限りのどこかにハイキャンプ(HC)を設けて2日をかけて登ることになっているのですが、一応ルートファインディングを試みても、登るラインもHCの設営予定地もさっぱりわかりません。気になる体調の方は、熱は下がったものの喉が痛く、そしてややふらつく感じがありますが、これが風邪の症状なのか高度のせいなのかも定かではありません。

昨日まではおおむね午前7時半出発でしたが、今日は高度に身体を慣らすためのハイキング程度なのでゆっくり9時出発となりました。

坂道の途中から振り返ればこの景色。BCを置いた場所は円形の平坦地になっており、過去には池だったのではないかと思わせる地形です。

1段上がったところにも明らかに池が干上がった場所があり、その先に数張りのテントがありました。

さらに右手にも別の隊のテント。そちらから上がってきた人物はバラサーブと旧知の仲だったらしく、互いに手を差し出して再会を喜び合うと共に、あれこれと情報交換を行なっていました。さすがバラサーブ、顔広し。

明瞭な踏み跡はロブチェの向かって左寄りの鞍部を目指しており、この日はトレッキングシューズのまま、ゆっくり時間をかけてその鞍部の下まで上がりました。

ガラガラの道ではありますが、斜度は見掛けよりも緩やかで登りやすく、気分の良い登高が続きます。周囲の岩壁には、カムさえあればマルチピッチで登れそうなラインがいくつも見てとれました。

この日は標高5100mを少し越えたここまで。斜面の行き着いた先は短い岩壁で遮られており、この日の装備では越えられません。ここでしばらく休みながら身体を薄い空気に慣らし、しかる後、同じ道を下りました。

いざ、スイートホームへ。

この道の下部にはよさげなボルダーがいくつもあってそそられますが、過去に遊びでそうした岩に触って負傷したため本来の目的である山行ができなくなった登山者の話をバラサーブから聞かされ、ボルダリングは自粛することにしました。くわばらくわばら。

大テントで昼食となりましたが、自分ははっきり食欲が減退しています。これは困ったなと思いましたが、一方でうれしい出来事はトコちゃんのひと足遅れの合流でした。先に書いたように、トコちゃんは旅の最初の頃はエベレストに自分も登る気満々でしたが、ここまで来ると「ここまででもえらいわー。エベレストなんてありえへん」と達観した様子。それでも持ち前の明るさが隊の雰囲気を賑やかなものにしてくれるのですから稀有なキャラクターです。

しばらく休憩の後、近くの斜面でフィックスロープにアッセンダーを掛けての登降の練習が行われました。このツアーのために私が持参したのはペツルのアッセンションで、私はこれまでタイブロックこそ使ったことがあるもののこうしたグリップ付きのアッセンダーは使用したことがなかったため、実に新鮮な体験です。それでも登りの方はある程度想像がついていましたが、腕にロープを巻いた状態でアッセンダーのカムを緩めて下るという使い方はまったく知りませんでした。

鍵になるのは、ロープを固定している場所で次のロープにアッセンダーを移す際のランヤードのセットとアッセンダー自体の素早い取り回し。クライミング経験者なら誰しも持っているセルフビレイの感覚さえあればランヤードの扱いを誤ることはないでしょうし、アッセンダーを片手で外し次のロープに瞬時に掛け直す作業も慣れればそれほど難しいことではありません。ただし、それは薄い空気の中で正常な判断力を維持し続けることと、カラビナ操作も苦にならないほどに自分の手にフィットしたグローブを使っていることが条件となります。

トコちゃんが合流したことで就寝時のテントをどうするかという問題が起こりましたが、熱はすっかり下がったので、私は本来の設定通り相部屋ならぬ相テントに入ることにしました。ただ、熱が下がったのはいいのですが同時に食欲も落ちてしまい、さらに咳に加えアレルギー性鼻炎の症状がひどくなってトイレットペーパーが手放せません。救いと言えば下痢の症状が治っていることですが、この日の夜は鼻呼吸ができなくなり、就寝中に自分の動悸の速さで目が覚めるほど酸素不足に陥ってしまいました。隣のテントにはトコちゃんが一人で寝ているのですが、目が覚める都度、そちらから息苦しさに呻くトコちゃんの声が聞こえてきます。トコちゃん、お互い頑張ろう……。

この晩の数時間が、このツアーの中で最も体調が悪かった時期でした。