塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

ディンボチェ〜ロブチェBC

2018/04/18

お腹のためにはミネラルウォーター。ネパール文字風のフォントが美しい「Sherpa」の文字の向こうに描かれているのはエベレストとローツェです。

これまでに比べて(これでも)軽めの朝食の後には、このミネラルウォーターでビオフェルミン止瀉薬を飲み込みます。今日はいよいよ、前半のハイライトとなるロブチェ・イースト登攀に向けてロブチェBCへ移動する日ですが、やはりここまで来るとそれぞれに調子の良し悪しが出始めました。特に消耗していたのはトコちゃんで、このツアーに参加する前に登山をしたことがなく、旅行前検診の際に医師に強く勧められて六甲山に2回登った(だけ)という彼は、それでもカトマンドゥでは「カラ・パタールの予定だったが、エベレストに登りたくなった。地続きなんやから登れないことはないやろ?」と言い出してあまりの天然ぶりに周囲を唖然とさせていたのですが、昨日の高度順化のハイキングもケルンの位置に登ったところで既に目いっぱい。沙織さんのサポートを受けてさらにしばらく頑張ったものの、ここで体力を使い果たした感じです。そのためここでトコちゃんはいったん戦列から離れることになり、残りのメンバーでロッジを出発しました。

まずは昨日登った尾根を低い位置から大きく回り込むようにして越え、ついでクーンブ・コーラ左岸の高い位置を横に走るトレッキング道を歩きます。昨日も大勢のトレッカーがこの道を歩いていく姿を見ましたが、この日も前後左右に相当数の人々が同じ方向に向かっていました。

道自体は明瞭ですが、斜面には連日の雪が残っており、早い時刻から雲が降りてきて寒々しい歩き。身が引き締まる……というより、単純に寒い。

途中にはこうした施設がありましたが、旅行者向けのものではなくヤクの牧畜に関する施設のようです。

歩くにつれて日が差すようになってきましたが、どうにも寒さがおさまりません。うーん、これはおかしいぞ?

昼食のお弁当を使いながら歩き続けて、浅い川を飛び石で渡ったところがトレッカーたちの中継点となるトゥクラ、この川を上流(北北東)に進んで行き着く先がエベレストBCです。ここで体温を測ってみたところ36.0度で、自分の平熱が35.5度ですから確かに発熱しており、関節痛も感じられるので解熱剤を飲みました。単に苦しいとか疲れたというだけなら体力の回復を待てばよいのですが、風邪など他の隊員に影響を及ぼす可能性のある疾患の場合には隔離措置も考えなければならないので、事は重大です。一方、ディンボチェに残ったトコちゃんのために皆で寄書きを書いていたら、どうしたことかそこへトコちゃんが登場して皆びっくりしましたが、驚きはすぐに拍手に変わりました。

しばしの休憩の後、今日はトゥクラに泊まるトコちゃんを置いて最後のひと行程に向けて出発です。川沿いのトゥクラから坂道をぐっとひと登りすると、そこにあるトゥクラ峠には異様な光景が広がっていました。

そこにあったのは、エベレストで命を落とした登山家たちの墓石(tombstones)が林立している広場です。そして墓石の中の一つは、私もその名前を知っているScott Ficherの墓石でした。

Scott Ficherは、1996年5月のエベレスト大量遭難の際にマウンテン・マッドネス隊を率いて登頂し、ブリザードの中クライアントの下山をサポートしようとして命を落とした人物です。バラサーブは黙ってその墓石に水をかけていましたが、個人的に親交があったのか、同じ山岳ガイド仲間として敬意を表したのか……バラサーブのしんみりとした姿を見ると、その点を問い掛けることはできませんでした。

トゥクラ峠からほんのわずかで、前方対岸の平地に黄色いテント村が見えてきました。水生さん曰く「我らのスイートホームですね!」。

その通り。これが、これから数日間の活動拠点となるロブチェBCです。

中央のひときわ大きなまだらのテントが全員入れるダイニングテント、そしてその周囲の黄色いテントは寝泊まり用のテントです。後者は、エベレスト隊員とロブチェ隊のうち個室料金を払っている者は1人使用、残りの隊員は2人1組で使用します。

それぞれのテントの中はこんな感じ。私は風邪気味であることと、この日はトコちゃんがトゥクラに残っていることから、夜は1人でテントを使わせてもらえることになりました。

ここからのルーチンは、夕食→脈拍とSpO2の計測→21時まで談笑(21時までは眠らない)→テントに入る→就寝中に何度か起きて小用(テントの外には出ずピーボトルにためる)→起床時刻にバラサーブか水生さんがテントにやってきてパルスオキシメーター計測と夜間の小用回数の確認、です。この晩は、尿意を催して目を覚ますたびに体温を測りましたが、徐々に体温が下がっていることに少し安堵しました。

▲この日の行程。